第2話 ストーカー王子、ストーカー扱いされる。「お前なんか好きじゃないけどな!」
「殿下、どうしてここに!?」
「外に出かけた君の跡をつけた」
その日の俺は、図書館に出かける彼女を追跡し、彼女に接触することに成功していた。
驚く彼女は、本当に可愛らしかった。
吊り目がちな大きな目を見開いて警戒している様子は、猫のようで愛らしい。
よく通るソプラノの声も、耳に心地よかった。『殿下、どうしてここに!?』『殿下どうしてここに!?』『殿下どうして……』うん、別の台詞も聞いてみたい。
知らず知らずに満面の笑みを湛えていた俺に、彼女は涙目だった。
そんな俺と彼女の様子に、彼女の護衛は警戒しながらも、戸惑いを隠せない様子だ。
どうやら、主人の危機という認識はありつつも、相手が第一王子なので、どのように対処すべきか考えあぐねているようだ。
うん、どうかそのまましばらく悩んで固まっていてほしい。
そんな状況に水を差したのは、彼女自身だった。
「ストーカーじゃないですか!」
「ストーカー?」
「好きな人の跡をつけ回って喜ぶ変態のことです」
「すすす好き!? 俺は君のことなんて好きじゃない! 君は人の顔を見てひっくり返るただの失礼な女じゃないか!」
彼女の言葉に、顔が発火しそうなぐらい熱を持つ。
その勢いで彼女の言葉を否定した。
そうしたら、彼女がしゅん、と濡れた子犬のような顔になってしまった。
(おい可愛いな!?)
(抱きしめたい!)
(いや俺は何をしにここに来たんだ!)
(とりあえずその悲しい顔をやめてほしい!)
(待て、しょんぼりした顔もこれはこれで……!)
「その節は、申し訳ございません……」
「えッ、いやッ、いいんだ! うんッ、いやッ、よくはない! いいんだが! よくはなくて! ええと、なぜ君は気絶したんだ」
「それは言えません」
目を泳がせながら問い詰める俺を、彼女はキッパリと
「な、なぜ」
「それも言えません」
「君は俺の顔を見て倒れた。俺は倒れられた。俺は被害者だ。加害者による弁明はないのか」
「ありません」
(弁明がないだとぅ!? これはやはり)
「やはり……俺は、ブサイクだったのか……ッ」
「え!?」
俺は自己肯定力の8割を失ったような、足元から崩れ落ちる感覚に震える。
俺はこのとき、まだ12歳と若く、権力に酔いチャラついていた。
男は中身だとか全然思っていなかった。
人間は外見が大事だと思っていた。
だから俺にとって『自分は顔がイケてる男だ』ということは、自分に大きな自信を与える大事な要素だったのだ。
しかし、彼女にそれを否定された。
王子だし、今後結婚自体はできると思う。
しかし、俺はきっとこの先ずっと、女性陣から、『地位と権力を持ってるけど、ブサイクだなぁ』と思われながら生きていくのだ。
俺は、俺は……!
「俺はブサイク……今後の人生をどう生きていけば……ッ!!!」
「ええ!? 違います、私が倒れた理由はそんなことでは」
「婚約者候補と初めて対面して、会って3秒で倒れられたのに!?」
「……」
図書館の自習室の中、半泣きで叫ぶ俺を、ヴィレッジ侯爵家の護衛も俺の護衛も、気遣いいっぱいの目線で見ている。
誰か俺を殺してくれ。
「分かりました」
「……?」
「仕方がありません。殿下にだけ、わたくしの秘密をお話ししましょう」
彼女はため息をついた後、しばらく躊躇うようにもじもじとしていた。
「なんでわたくしがこんなことを……」「今後のためよ、頑張るのよわたくし」と小さな呟きも聞こえる。
その後、ようやく心の整理がついたのか、彼女はキッと俺を睨む。
睨まれた俺が怯んで固まっていると、彼女はつつつと近くに寄ってきて、俺の服の裾を掴んだ。
「……殿下と、わたくしだけの……二人だけの秘密にしてくれるなら……お話しします。殿下のこと、信じてもいいですか?」
なんと、彼女は恥じらうように震えながら、こてんと首を傾げつつ、潤んだ瞳で上目遣いにおねだりしてきたのだ!!
あざとい!
可愛い!
素晴らしい!
「君の気持ちは分かった。いますぐに婚約しよう」
「何の話ですか!?」
「たくさん二人だけの秘密を作ろうじゃないか。そうと決まれば父上と母上に」
「話を聞いてくださいまし!」
「君の話ならいつでも聞きたい」
「声を聞いてるだけでしょうがー!!」
その後、彼女に豪快な平手を食らわされた。
そして、我に返った俺は、ようやく話し合いの席についたのだった。
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第一王子は侯爵令嬢と一緒にいられて幸せいっぱいのようです。
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