第27話ちょっとした掛け声で

 今日は1年振りに地下鉄南北線に乗って、とある神社にお参りに行く。


 私の足は車椅子。


 故に、電車に乗る瞬間トキは乗務員の手助けなしでは、どうすることも出来ない。


 その乗務員2人と、目的の電車を待つこと暫し。


 その間、お互いに緊張しているのか、会話はない。


 そして、待ちに待った電車がホームに入り、ゆっくりと私達の前に停車した。


 ドアが開き、もう1人の乗務員が空かさずスロープを電車の入口に掛ける。


 私は見慣れた光景に特に反応もせず、車椅子に揺られて電車に乗り込もうとした。


 その刹那

「行ってらっしゃいませ、良い旅を」

という、まるで大きな旅行にでも行くかのような言葉をかける。


 一瞬“えっ?”と思った私だったが、直ぐに満面の笑みを浮かべた。


 こんなことは滅多にない出来事だったので、とても胸の奥が嬉しさで温かくなったのである。


 お陰で無表情でお参りするかもしれなかった神社が、楽しく寛げる憩いの場に変わるであろう。


 ドアが閉まる時、私がその乗務員に“有難う”の笑顔を送ったのは言うまでもない。


令和3(2021)年11月27日8:41~8:51作成


Mのお題

令和3(2021)年11月15日

「東京の地下鉄から始まる物語」

※東京メトロ南北線内にて執筆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る