第5話洗濯屋さんのシンデレラ

「ぼ、僕は素直なあなたが好きです!

結婚して下さい!!」


 下宿屋を営む隣りの家の1人娘を貰った次男の僕は、この数十年とても幸せな生活を送った。


 勿論、幾多の困難を彼女を含む仲間達の力を借りながら乗り越えてきたことは、言わずもがなである。


 代々営んできたクリーニング店は、残念ながら5年前に廃業-婿さんが偶然にもクリーニング店の本社に勤めていた為に、そちらに全てを任したと言った方が正しい-し、手持ち無沙汰となった時間を、個人的にまたは夫婦揃って出来なかったことや、やりたかったことに使った。


 そして、今……


 僕は1つのアイデアを胸に秘め、ゆっくりと洗濯物を畳む妻に近づく。


「なぁ、母さん」

「なぁに、あなた?」


 明るいが落ち着いたその声に、思わずキュンとなる僕。


 この人を選んで良かったと思える瞬間だ。


「提案があるんだけど……」

「提案?」


 そう聞き返した彼女の手には、5年前に次女から貰った花柄のハンカチが握られている。


 丁寧に畳まれていくのを見ながら僕は

「君が一番やりたかった勉強……

大学へ行ってみないか?」

“放送大学でもいいぞ?”とハンカチを畳み終えた妻に伝え、ついでに3ヶ月前から計画していた事も付け加えた。


「大学ねぇ……」


 妻は眉をひそめて困惑した言葉を口にする。


「行ってみたいけど、もう年だし……

何より資金がね」


 妻はそういいながら、バスタオルに手を伸ばした。


「資金はある」

「?」

「結婚当初から頑張って貯めた分と、娘達夫婦が密かに貯めていてくれた分がある」


 僕は胸を張り、得意気に言い切った。


 妻は目を丸くしたものの、直ぐに笑顔になり

「あら、素敵なバースデイプレゼントね」

と、向かい側の壁に掛けてある日めくりカレンダーに瞳を向ける。


 つられて僕もカレンダーを見て、言葉にならなかった。


「偶然ってあるんだな……」

「?」


 僕はポロリと言葉を紡ぎ、話を進める。


「そうね……

面白そうだから、やってみようかしら」


 妻は嬉しそうに、この突拍子のない話を受け取っててくれた。


 この2年後、妻は大学を受験、そして合格。


 今は、沢山の仲間と楽しい大学生活を送っている。


お仕舞い


令和3(2021)年7月7日22:45~7月29日6:09作成




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