第9話 「ドイロ・アローシカ」

「シャルル」と書かれた箱からタバコを1本取り出し火をつける。

 1口目は少しだけ吸い、吐く。2口目はむせない程度まで吸い、ゆっくりと吐く。そして3口目からは普通に吸って吐く。これが私のタバコを吸う時のルーティンだ。

 スムノが会議に行って10分が経った。私は今ベランダに居て、下ではスムノの妹のテンとエルシアと、そのスムノと契約を交わしている特殊大天使、ドッペルゲンガーがトランプをしている。

 私がトランプをしてしまうとどうしても天贈が発動してしまいゲームにならない。だから3人がトランプを終わるまで暇つぶしにタバコを吸っている。

 同じく「シャルル」を吸っているエルシアはスナイパーで敵を狙ってる時しか吸わないらしく、プライベートでは吸ってくれないので少しばかり寂しい気もするが無理を言うのは性にあわない。というか喫煙者なのに普段は吸わないというのが彼女の尊敬するところだと私は思う。


「あ、まじか。ラスト1本だったか」


 1本目を吸い終わり、2本目を吸おうと思ったが箱の中は空だった。ちなみに私は1日にタバコを5箱吸う。リビングに置いてあるカバンの中にストックがあるので取りに行くため、階段を降りた。


「あ、ドイロさん、タバコ吸い終わったんですか?」


 下に降りるとテンが私に話しかけてきた。状況を見るにトランプは終わったらしく、心を読むにエルシアが圧勝し、テンがボロ負けしたようだ。


「あぁ、まぁ吸い終わったと言えば吸い終わったかな」

「私、ドイロさんに聞きたいことあったんだよね」

「聞きたいこと…なるほど。私の名前のことと、スムノとの出会い…ね」

「さっすが!」


 私は本当はタバコを吸いたかったのだが、まぁこのキラキラした目で迫られたら、答えたくなるのも仕方がない。なので私はテンの疑問…と言いつつもエルシアの心をチラッと見たところ、「私も知りたい」と書いてたので、テンとエルシアの私についての疑問を解決することにした。


「わかった話すよ。まず、私の名前についてだね。君たちが思うに私がなぜ見た目100パーセント日本人なのに名前が日本人じゃないのか」

「そう!それ!ずっと気になってた」

「というかテン、敬語は?一応歳上なんだよ?この人」

「いいんだエルシア。私とテンは上級天使がいつ襲ってくるか分からないところで衣食住を共にしたんだ。それに私の命を救ってくれたしね。今となっては敬語を使われる方が寂しいよ」

「ならいいんですけどね」

「私の顔が日本人顔なのは、私の両親は日本人であり、私を不気味な子と呼び、路地に捨てた」

「…え?」

「というのも、私は産まれてくる時産声を上げず、鳴き声も挙げず、頭が出たなら普通に息を吸っていたらしい。それに1歳にして普通の大人が読む小説を読み、2歳にして3ヶ国語を話し、親の分からない言語で悪口を言っていた。おまけに天贈で心も読めるからより不気味だと感じられ、最終的に捨てられたんだ」

「2歳で3ヶ国語って……今は何ヶ国語話せるんですか?」

「8ヶ国語」

「すご…」

「それ以降は勉強する気にならないし話そうとすら思わなくなった。人間話す言語は最低3ヶ国語でいい」

「私日本語しか話せない」

「それは勉強してないからだ。まぁ私の顔が日本人顔ってのはこれでわかったな。んでつぎに私の名前だが、私を拾ってくれた人が外国人でね、元の名前を捨てた私に名前をくれた。それが今の名前『ドイロ・アローシカ』だ」

「なるほど…ちなみにその拾ってくれた人は」

「もう死んだ」

「あ…」

「寿命でね、亡くなった。私を拾った時点で54歳。男手1つで私を育ててくれて、本当に感謝している。……彼の名前は『ミダレス・アローシカ』。天贈人だった」

「天贈人だったんですか!?」

「あぁ、天使と戦ってるところを見た事あるが強かったよ。『ゴールデンハンド』という天贈で触れたものを黄金にする、というもので自分の拳を黄金に変えて天使をぶん殴ってる姿が記憶に残ってる」

「うわ痛そ…」

「とまぁ、これが私の過去かな?なにか質問は?」

「ないかな」

「私もないですね。強いて言うならタバコを吸い始めた理由…とかですね?」

「タバコを吸い始めたのは自らの寿命を減らすためだ」

「え、なぜなんです?」

「さぁね、忘れたよ。昔のことは」


 私は自分のカバンが置いてあるソファーに向かい、その中にあるタバコの箱を1つ手に取り、ベランダへと向かおうとしたのだが、階段の1段目に足を置いた所でドッペルゲンガーが静かに手を挙げた。


「……どうした?まだ私になにか質問か?」

「先程の話とは全く関係がないけれどあなたに聞きたいことがある」

「何かな?早くタバコを吸いたいんだが」

「私のような特殊大天使は他にどんな奴がいるのか教えて欲しいの」

「え」


 ドッペルゲンガーの質問は意外なものだった。特殊大天使のドッペルゲンガーが他の特殊大天使について聞いてきたのだ。私は少し驚いてしまい、ドッペルの中をつい覗いてしまった。結果、ドッペルゲンガーは他の特殊大天使について知らなかった。というかドッペルゲンガーは特殊大天使の中で最新の特殊大天使だった。


「私はこの世に特殊大天使として生まれて約10年、スムノと出会って7年。その間私は特殊大天使について聞かされなかったし教えもされなかった。スムノは何故か教えてくれないし、あなたなら教えてくれると思って」


 特殊大天使がほかの特殊大天使を知らないなんてことがあるのかと思ったが、実際ここに他の特殊大天使を知らない天使がいるので私は教えることにした。ついでにテンとエルシアにも教えようかと思い2人を覗いたところテンは特殊大天使について知っていた。


「…テンは知っていてエルシアは知らないんだな」

「え!?エルシア知らないの?常識だよ!?」

「常識も何も、私は興味が無いことについては何も知らないから仕方ないじゃない」

「いや、そこは天贈人としてさ…」

「いいよテン。私が説明する。テンは復讐だと思って聞いとけばいい」


 私は再び椅子に座り、説明を始めた。


「まず、特殊大天使というのは言わずもがな天使の中で最も強い階級だ。そしてその特殊大天使は日本に7体、アメリカに3体、インドに5体、ロシアに1体、中国に4体いると言われている」

「世界各地にいるんだね。その中で日本が1番多いと」

「その理由が今我々がいる和歌山の『あらぎ島』という所に天使が初めて舞い降りたからって言われてる」

「私生まれも育ちも和歌山だけど行ったことないんだよね」

「行ったことないと言うよりかは兄さんが行っちゃダメだって言ってたんだけどね」

「私からも言おう、あそこはダメ」

「そんなに危険な場所なの?」

「そう。そこに9体の内1体がいる」

「なるほど…」

「海外の特殊大天使は関わることは無いから日本にいる天使だけについて説明する。まず1体目はそこにいる『ドッペルゲンガー』、2体目『テケテケ』、3体目『メリーさん』、4体目『口裂け女』、5体目『スレンダーマン』6体目『坂本龍馬』、7体目『赤マント』、8体目『九尾』、そして最後が一番ヤバイと言われている9体目『八尺様』。以上が日本にいる特殊大天使だ」

「坂本龍馬!?」

「そう。坂本龍馬だ」

「昔のことを紹介してる番組に出てくる坂本龍馬が天使だったなんて」

「みんなが知ってるあの坂本龍馬は人間の坂本龍馬だ」

「じゃあなんで…まさか…天使に転生?」

「う〜ん、まぁ正解に近いかな。正解は自ら天使と契約し、天使になったって言われている」

「天使と契約すれば天使になれるの?」

「その辺はまだ分かっていない。あくまで言われているだけだからね。その辺は坂本龍馬に会ってみないとわからないな」

「というか坂本龍馬以外ほとんどが都市伝説の名前なんですね」

「そうだな。というのも昔の人が特殊大天使というのが存在してるのが嫌で伝説にしたと言われている。すまないがこの辺は私もややこしい。なぜ特殊大天使の名前が都市伝説なのかについてはスムノに聞く方がいい。これで他の特殊大天使について分かったかな?ドッペルゲンガー君」

「あぁ、ありがとう」

「それにしてもなんでスムノは教えてくれなかったんだろうね」

「まぁそれはスムノが帰ってきたら聞こう?」

「ただいま〜」

「噂をすればなんとやら、だな」


 話が終わったので、私はタバコを吸いにベランダへ向かった。

 下の階から聞こえるみんなの声を聞きながらタバコに火をつけ吸い、口の中に溜まった煙を吐いた。


「よ、1人のところ失礼」


 下の階でテンたちと話していたスムノがベランダの扉を開け、私の隣に立った。


「匂い移るぞ」

「ドイロの匂い好きだからいいよ」

「きっしょ」


 しばらく沈黙が続き、互いの息をする音が気になりだした所でスムノが口を開いた。


「ドッペルに今いる特殊大天使のことを教えなかったのは、なんつーか、まだ早い的な」

「ドッペルは特殊大天使だ。早いもなにもないよ」

「まぁ、そうだよな…」

「お前が過保護なのもわかるし、仲間を失いたくないのはわかるが、教えてやっても良かったんじゃないか?」

「仰る通りです…」

「親友を失ったお前はもう誰も失いたくない。私も同じ気持ちだよ」

「……もう誰も失わないように俺は強くならなきゃならない。俺が目をつぶってでも特殊大天使を倒せるようになったら教えようと思ってたんだ」

「お前でも特殊大天使は怖いのか?」

「怖くはない。だが…手こずるね。特に八尺は」

「1度負けたもんな」

「あぁ…」


 再び沈黙が生まれた。私はは2本目のタバコを取り出し火をつける。その行動を私の横で見ていたスムノが口を開いた。


「なぁ、1本くれよ」

「お前吸うの?」

「極たまにな」

「お前の記録を読んでもタバコについては書かれてなかったから知らなかった」

「へぇ、書かれてないこともあるんだな」


 私はスムノにタバコを1本私、ライターを貸した。

 久しぶりだったのかスムノはタバコを吸って咳き込んでいた。

 私はそれを鼻で笑ってタバコを吸い、煙を吐いた。

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