第73話 ピンチはチャンス!

 図体が図体だけにダンジョンそのものが意思を持って暴れているようなものだった。

 特殊な魔法や技など必要ない。ただ本能のままに暴れるだけでそれらをしのぐ破壊力を持つ。


『ゼンブ、コワレロォオオオオオオオオッ!!』


 クロトが飛び、ユウジが獣のように勢いよくその身体をよじ登るも、勢い強くなかなかダメージを与えられなかった。


「槍の大盤振る舞い、いっくぞおおおおおおお!!」


「援護するわ」


 無数の槍が飛び、妖術が閃光となって赤黒い空を舞う。

 爆発とおびただしい煙が頭部をつつむも大したダメージにはなっていないようだ。


「わたしもまいります!」


 ユウジたちとともに前へ出る。

 俊敏な拳と蹴りで応戦するも、一頭の襲い掛かりですぐに跳ね飛ばされた。


「おい!!」


「キャ!」


 クロトがマドカを抱えて地面に降ろした。


「平法は使えそうにないな」


「こればっかりは……残念でなりませんが」


「アンタは後衛の守備に当たれ。俺とユウジさんで前に出るから!」


「あ、まって! あぁ……」


 激戦はさらに過熱を極めた。

 数頭がうねり、身体を地面にぶつけながら進むだけで石畳の世界は炎の色に包まれる。


「グッハ!!」


 吹っ飛ばされ変身が解かれるユウジは受け身をとりながら物陰に隠れる。

 

「よぉ元気?」


「クロト。くそ、なんなんだあれ。全然攻撃喰らわねえぞ」


「……一番ヤバい想定にたどり着かなきゃいいけど」


「全滅エンドか?」


「全滅エンドでアイツが倒せるってのならまだいいですよ。それよりもさらにとんでもないレベルのだ」


「はぁ!?」


「アウター・ダンジョン、ブラックボックス、そしてあのガキんちょ。いやな三位一体の結果あのデカブツだ。仮に、仮にですよ? 


「……な、なにが言いてえ?」


「考えてもみろ! アイツが目覚めてからこのダンジョンがめちゃくちゃだ。普通ダンジョンボスはそうしない! テリトリーってもんがあるからな! もしもあのデカブツの目的が外に出ることにあるとしたらだ!」


「だからなんだってんだよ!」


! 俺たちは卵の中に潜り込み、ヒナであるあのデカブツが生まれた。ヒナは殻を破って外へ出るもんだ! アイツの目的がこのアウター・ダンジョンを破壊して外へ出ることだとしたら!」


 さっと血の気が引いた。

 通常魔物はダンジョンの外に出ることはできない。


 ダンジョンに含まれる魔素を供給できず生きることができないから。

 だが、ブラックボックスで魔物になった人間なら話は別だ。


 アウター・ダンジョンの破壊に巻き込まれることもそうだが、それ以上に外界の被害がどれほどのものになるか。


「これも……ナーガ=ネガが?」


「ただの憶測ですよ! それよりもどうするか考えましょう!」


「……考えるまでもねえだろ」

 

 ユウジが立ち上がる。

 

「なんか策でも!?」


「ねえよ! でも、やらなきゃいけない!」


「……あぁ、まぁそうだよなあ」


「アイツにどうにかして肉薄しないと……」


「えぇいこうなりゃ一蓮托生いちれんたくしょうだ! 俺が運びますよ!」


 しばらくして女性陣もまた合流。

 そのとき、耳よりな情報を手に入れた。


「さっき偵察のために式神で見てみたんだけど、あの蛇たちの交差部分のところに妙なエネルギー体があるのよ。黒い瘴気の渦みたなものなんだけど……」


「もしかしてそこに……。クロト、頼めるか?」


「……やるだけやってみましょ」


「ちょっとユウジなにするつもり!?」


「俺がそのエネルギー体につっこむ。変身すりゃどうってことないだろ。……そうだ。なぁマドカ、さっきの日記持ってるよな? 貸してくれ」


「え、えぇ……」


「ユウジ君、これ、お守りよ。気休めだろうけど、きっと守ってくれるわ」


「ありがとうございます。────うし、行くか!!」

 

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