第72話 それはあまりに巨大な!

 ひざまずく人影は少年のものだ。

 すすり泣き、両手を握るようにして祈り、こちらには見向きもしない。


「あれって、人だよね?」


「でもあそこを中心に渦巻く魔力はケタ違いね。まさかあの子がダンジョンボス?」


「でも子供だ……。よし、まず俺が声をかけてみる。皆はここで待機してくれ」


「いや無鉄砲すぎでしょアンタ。どうせだったら今この瞬間にこの距離からフルパワーで奴をブッ飛ばしたほうがいいですよ」


「お、お待ちください! まさか、子供を手にかけようというのですか!?」


「しょうがないだろ。ありゃあどうみても敵だ。即刻駆除したほうが」


「待てってクロト。もしかしたら次元の揺れに巻き込まれた民間人かも」


「あれが民間人? アンタの経験則はそうかもしれないけど、俺の経験則は違う。ダンジョンボスに一票」


「怪しいのは承知の上だ。でも、やっぱり気になるんだ。行方不明者の白骨死体のこともあるしもしかしたら……」


「じゃあアンタだけで行ってください」


 ユウジが行こうとすると少年がピタリと止まった。

 

「な、なぁ君!」


「……るな」


「え」


「こっちへ来るな!」


「うぉおお!?」


 拒絶と波動がユウジを跳ね飛ばす。

 受け身をとってすぐに皆と同時に物陰に隠れた。


「ほうらだから言ったでしょうが。ありゃまともじゃない」


「でも会話はできそうだ。話せばなんとか……」


「なるわけねえでしょうが! 見てみな。ありゃあ……」


 立ち上がる少年の瞳はどこまでも虚空が広がっていた。

 ホラー映画さながらのガクガクした動きで宙に浮く。


 古城にまとわりついていたあの蛇たちが集束し、礼拝堂を埋め尽くすとみるみるうちに巨体へと仕上がっていった。


 しまいには礼拝堂を突き破って古城を出てしまう。

 

「な、なんだぁありゃあ」


「これまでの魔物の比じゃないわ……っ」


 いくつもの頭を持つ巨大な蛇は、天高くそびえる塔のようにそり立つさまで動き回る。

 ただ動くだけで街が倒壊し、咆哮だけでダンジョンを構成する次元の壁が揺らぐほどだった。


 圧倒的なスケールに一同が呆然とする中、マドカがつぶやく。


「……そが目は赤かがちのごとくにして、身ひとつに八つの頭、八つの尾あり。またその身にこけまた檜榲ひすぎ生ひ、長谷たけたに八谷、峡を八尾ををわたりて、その腹を見れば、つぶさに常に血ただれり」


「日本書紀ね」


八岐大蛇ヤマタノオロチ……あの巨怪のさまはまさしくそう言えるものでしょう」


「おいおい、魔物どころか怪獣じゃねえか! こんなの部隊率いなきゃいけないレベルだぞ!」


「泣き言言ってる場合じゃねえぞ! 俺たちでなんとかするんだ!」


「いやあのデカさはさすがに……」


「あの子を助けるんだ! ……【変 身】!」


「あぁもう! レイヴン-Σシグマ、セット・オン!」


「え、えぇぇええ!? あれと戦うの!? って行っちゃった」


「ふたりだけでは危険です。わたしたちも行きましょう!」


「そうね。このままじゃ私たちが押しつぶされかねない」


「くううう……皆アタシより勇敢すぎだよ。でも、怯えてはいられない!」


 変身したクロトとで上等だこの野郎と荒れ狂うように立ち向かう。

 あとに続く女性陣とともに、いまだかつてない闘いの幕が上がった!

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