第71話 机の中に!

 カーテンを閉めてベッドから離れる。

 本棚や机はあれど、書物の内容はすべて文字化けしたものが羅列していた。


「探索はできそうにないですねえ。翻訳機能使って見てみましたけど、余計あべこべだ」


「その端末そんなこともできるの? ハイテクじゃん」


「万能じゃないけどな」


「じゃあなんでここへ幽霊さんは?」


「遺体を見つけてほしかった、ってだけではなさそうね」


「キララ、机のほうになにかあるか?」


「机のほうっていってもさぁ。……あれ、この引き出しだけなんか開かない。ムカつく」


(理不尽だなあ)


「こじあけるか?」


「ご遺体の前でそんなっ! さすがに罰当たりなのではと」


「ご遺体……あっ」


 クロトがまた白骨死体のほうへいく。

 しばらくして戻ってくると、鍵らしきものを持ってきた。


「手に持ってた。これならいいでしょ」


「お前……」


「なんでそういう顔するんですか。死体漁りも仕事に入ってたりするんでね。ま、やらないにこしたことはないけど」


「……それでなんで幽霊怖いんだ?」


「ほっといてください」


 カチャリと鍵を開け、引き出しの中を見るとそこには一冊のノートがあった。

 なんの変哲もないどこにでもある大学ノートだ。


 そして、キチンとした日本語で書かれている。

 

「これってさ。あの人のだよね」


「日記ね。日付は……3年前で止まってる」


「うう、人様の日記を見るというのは……」


「いや、もう仕方ねえだろここまで来たら。アンタも腹くくんな」


「なにが書いてあるんだ?」


「ちょっと待ってってば。……弟さん、かなぁ。そればっかり書いてある。でも、なんだろ。これは……」


 一同は恐る恐る日記に目をとおす。

 ひと通り読み終えた直後だった。



 ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 古城そのものが揺れて部屋の書物がバサバサと落ちる。

 なにごとかと部屋を出ると、蛇の動きが盛んになっていた。


 ミシミシと音をたてて城内を圧迫していく。


「ちょちょちょ、揺れる揺れる揺れるぅ!」


「い、いったいなにが起きているのですか!?」


「蛇が移動を始めたのかしら」


「見てください。移動したお陰で通れる場所が変わったみたいですよ」


「元来た道はふさがれて、通れなかった廊下が……」


「じゃあ、すぐに行ったほうがいいね。また動かれてふさがれるのやっかいだし!」


「あぁ、こっから猛ダッシュで行くぞ!」


 蛇がのいた廊下を進む。

 罠や人形がチラホラいたが、アルデバランの敵ではない。


 たどり着いた先にあるのは礼拝堂だった。

 あれだけやかましかった城内が荘厳な静けさに包まれる。


「でけえドアだな」


「皆で開けましょう」


「うし、せぇのっと!」


 ギギギと開くと、ここだけはさらに妙な古さがあった。


「あら、もしかしてバロック彫刻かしら。綺麗ね」


「……見ただけでわかるの姫島さん」


「"ヴェールに覆われたキリスト"、あっちは"謙遜"、そしてあれが"聖テレジアの法悦"。でも、実際のとは少し形状は違うみたい。贋作かしら?」


「これ大理石? だろ。石なのに水みたいななだらかさがあるな。」


「美術館じゃないことお忘れなく皆さんよ」


「どうやら、ダンジョンボスがここにいるようです」


 一同の正面。祭祀場に祈るように、ひざまずく黒い影。

 なにかをブツブツとつぶやいていたが、ぴたりとやんだ。



「お前は……っ!」

 

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