第74話 黒い霧の奥で!

 女性陣がヤマタノオロチを相手にしている間、クロトとユウジは手薄になった上空へと向かう。

 

「めっちゃ重ぇ……っ」


「我慢してくれ」


「せめて変身しないでもらえますかね!?」


「なにが起きるかわかんねえだろうがっ!!」


「落ちながら変身したほうが絶対いいって! 俺もそうするもん!」


「だーうっせ! うし、ここいらだ。ここから俺を落とせ」


「ほ、ホントにいいんですか? 落ちるところ間違えれば」


「いいからさっさとやれ!」


「クソ、まあがんばってくださいやっ!!」


「うし、行ってくるっ!」


 ブレイク・フォームで勢いよく落下する。

 落下ポイントに向かってまっすぐ向かい、


「ぬおおっ! もうちょいもうちょいもうちょい!」


 何度かうねる巨体にぶつかりそうになりながらも、黒いエネルギー体へと見事ダイブした。


 大きさに反して、内部は大海のように広い。


「な、なんだ。ここは? お、歩けるな……でもなんも見えねえや」


 歩けども歩けども虚しく足音が響くばかり。

 しかし一筋の光が見えてきたのは歩いて10分ほどだった。


「ここは……家の中か?」


 目の前に広がるあせたセピア色の世界。

 大きな間取りの屋敷めいたしっかりとした造り。


 視線の先のカーテンが揺れる廊下の向こう側から、音楽が聴こえる。

 同じフレーズを何度も繰り返しているようだ。

 

「こっちがリビング? お、人の声が聞こえる。ん~?」


 気は乗らないが、壁に張り付いて聞き耳を立てる。

 

『学校行きたくないってどういうことよ』


『僕、僕……』


『なにゴニョニョ言ってんの? そんなのいいわけないじゃない! ねぇ、学校でなにかあったの?』


『なにかあったって、その……』


『あぁもう! はっきり言いなさいよっ!!』


(めっちゃビクビクしてんな。すっごく怯えて、言いよどんでるけど……)


 そこからも彼をさえぎるように、怒涛の勢いでまくしたてる。

 どうやら学校で教師や同級生からも良くない思いをさせられているらしい。


『からかわれるなんて、そんなの無視すればいい』


『学校行かないなんて絶対ダメ! アンタはなにも悪くないんだから堂々としてなさい!』


 見えはしなくても雰囲気で萎縮しきってしまっているのがわかる。

 場面は目まぐるしく変わり、今度は両親。


『心を強く持ちなさい』


『将来のためにも学校には行っておいたほうがいいわ』


『学校や教育委員会にはちゃんと話しておく。お前はキチンと学業に励むんだ』


 姉のキツい言い方には思うところがあるようだが、おおむねそんな言い分だ。

 

(あれが山本ユリカの弟、山本タダヒロ。そうか、礼拝堂の子はアイツだったのか。それはそれとして、ずいぶんな境遇だな。だけど……)


 ユウジの中に巡る疑問。

 それはあの大学ノートの内容にある。


「ん、なんだ急に静かになったぞ?」


 ────ザァァァァァァァァァ……。


「雨……?」


 ────ガシャンッ!!


「っ!? 今の音は!?」 


 玄関のほうからだ。

 そこには例の惨劇の現場が展開していた。


「これは……、お前がやったのか?」


『あ、あぁ……そんなっ!』


 絶望に顔をゆがめる山本タダヒロの幻影。

 隠されていた驚くべき真実と同時に幻影は消えた。


 一瞬にして雨が上がり、またリビングから声が聞こえてくる。


「ここは、アイツの過去なのか?」


 すると、エントランスの奥にある大きめの扉がギギギと開く。

 

「……もっと踏み込めってか? うし、いいだろう」


 ユウジは軽くトンファーを回しながら勇み足で中へと入っていった。





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次話からは11/07からスタートいたします

 

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