第68話 シニスター・フォーム!

 バルーンのように地面や建物を跳ねながらマジシャンのトリッキーな攻撃が始まる。

 鋭い切れ味のトランプにハトを模した飛行爆弾、シルクハットからは火炎放射とやりたい放題だ。


「クソ! ラッシュ・フォームじゃ追いにくい!」


「あれだけ縦横無尽だと厄介ね。笑ってるけど、感情というよりかは……」


「なんというか、壊れた機械って感じっすね」


『GAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!』


「野郎……っ!」


「く、こんなところで足止めを食らうわけにはっ!」


 嘲笑うように跳ねる姿にいらだちを隠せない。

 様々な術式、様々なフォームを試してみたが……。


「姫島さん。今から俺は新しく手に入れた力を開放します」


「え、新しい力って。まだなにかフォームがあるの?」


「はい、ただ、どういうものなのか俺もよくわかってません。確かめる余裕がなかったので……」


「……いいわ。開放しなさい! なにかあっても私がフォローする!」


「ありがとうございます。……いくぜ!!」


 ガントレットを出現させ、ナーガ=ネガからもらった宝玉に切り替える。

 オーラやパージとはまた違う、泡立つ不気味なノイズに包まれていった。



 ビキ、ビキビキビキ、メキッ!!



 それは卵の殻を割るように。

 目覚めてはならない意思が内部で暴れだし、手を外界へと伸ばして突き破る。


 現れたるは明確なる憎悪と野生の化身。

 邪悪な骸骨スカルズのような白い強化外骨格にはところどころひび割れがほどこされ、そこから蒸気機関のように瘴気を噴射する。


 ふらつき、のけぞり、不安定な足取りをしたあと、マジシャンに目を向けた。


「HAHAHAA?」


「ユ、ユウジ君?」


「ヴェェェェァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 空間を軋ませるほどの咆哮とともに、四足歩行じみた高速移動で壁や地面をかけめぐる。

 この勢いにマジシャンも負けじと攻撃の手を強めた。


「ぬおぉおおおお!!」


 マジシャンに肉薄し、野生の本能に任せたガムシャラな攻撃。

 ダメージを受けようがどうしようがおかまいなし。


 得意の奇術でこようものなら空間ごとえぐりとるほどの威力をもった爪攻撃ですべてかき消す。


 近接戦法ではマジシャンは圧倒的に不利。

 一時逃げようと思った矢先、


「行かせはしないわ!」


 炎の妖術がマジシャンの背中に炸裂し、大きな隙を生み出した。


「ヴェェェェァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


『GIGI!?』


 ザクンッッッ!!


 かかとから伸び出た刃めいた器官とともに空中かかと落としを決める『シニスター・ヴァイツ』。

 圧倒的なパワーの前になすすべなく、マジシャンは真っ二つになり敗北した。


『GUAAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 ユウジの着地と同時に爆発四散。

 その勝利を祝うかのようにユウジは満月に向かって咆哮、そして。


「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……ヴワァァアアアアアアアアアアアア!!」


 駆け寄る姫島を威嚇するように振り向き、彼女を止めた瞬間に飛びかかった。


「あぐっ!」


「グワァアア!」


 壁に押さえつけ、左手の爪で引き裂こうと構える。


「………………」


 最初は痛みに顔をゆがめていたが、すぐに凛とした表情に戻し彼の目をジッと見つめる。


「ぅ、……ウう、ウ」


 その瞳になにかを感じた。

 

「うぐ、うぐがが、あああああああああああ!!」


 ユウジは唸りながら左拳を握り爪を隠す。

 そしてゆっくり姫島を離して、左腕にガントレットを顕現させ、



「ぷはぁっっっ!! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あ、あぁ、俺、俺は……」


 精神を持ちなおし、変身を解除した。

 一気に力が抜けてその場に両膝をつく。


 そんな様子を見た姫島は、


「もう、大丈夫よ」


 かがんで視線を合わせてから、優しく抱擁した。


「姫島、さん……俺、その」


「まだ力がコントロールできてないだけ。これから頑張っていきましょう。大丈夫、私はアナタを傷つけないし、見捨てたりしない」


「……すみません」


「謝らないで。私はアナタを見捨てたりなんかしないから」


 しばらく彼女の抱擁に身を委ね、心を落ち着かせた。



 死という概念を装甲化させることで肉体と精神のリミッターを外す。

 バーサーカーじみた攻撃性能と野生の本能に任せたトリッキーな動きで相手を蹂躙することに長けた新しい力『シニスター・フォーム』。


 死の淵より舞い戻るとは、このことかもしれない。

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