第67話 とにかく探索だ! 

 アウター・ダンジョン『サマヨエル王朝』。

 暗黒と満月の舞台。

 かつては栄華を極めただろう都が、廃れた建物となって列していた。


 とはいえこれらは作り物。

 建物の並びに法則性はなく、頼りないガス灯がダンジョンボスがいるであろう道を照らしていた。


「う~ん、ここは。……ハッ! 姫島さん!」


「ユウジ、くん?」


「大丈夫ですか。ケガは!?」


「ううん、問題ない。……でもここはいったい」


 気配はないのに異様な雰囲気。

 ガスの中に含まれる血や吐しゃ物がまじったような臭いに顔をしかめながら、ふたりは周囲を見渡す。


「キララもマドカも、クロトもいない……」


「さっきの次元流でバラバラになったのかもしれないわ。このダンジョンにいればいいけど」


「連絡は……当然無理か」


「今は、進んでみるしかないわ」


「無事だといいっすね」


 ここにいるのはユウジと姫島だけ。

 奥へ進むごとに、重圧が濃くなっていく。


「ユウジ君」


「えぇ、いますね」


 崩れた建物の瓦礫から、建物の物陰、マンホールの下、倒れた馬車の中。

 這い出るようになにか出てきた。


 等身大の人形だ。

 タキシードにシルクハット、ドレスに羽のついた大きな帽子。

 中には子供サイズもいる。


「斧に、銃に……おいおいでっかいノコギリも! こいつらやっぱり」


「えぇ、敵ね。準備はオッケー?」


「えぇ、いけます!」


「さっさと片付けるわよ!」


「ウッス! ────【変 身】!」


 姫島の妖術のアシストを受けながら、ブレイク・フォームでトンファーを振り回す。

 人形たちの強さはそれほどでもないが、特筆すべきはやはり人形が人形たるゆえんか。


「恐怖も痛みもなにもないって感じね」


「でも、そのぶん単調だ。これならいけるッスよ!!」


 ラッシュ・フォームに切りかえ、少しかがんで力をためる。

 その隙を逃すまいと襲い掛かってくるが、一瞬が如き攻撃に人形は粉みじんになっていった。


「ふぅ、これで全員か。イテテ、壁にぶつかった……」


「大丈夫?」


「いや、変身してるときはこの程度の痛みは全然。それよりも姫島さん」


「ん?」


「人形、その、大丈夫でした?」


「……あのことなら、心配しないで。皆のお陰でこうしてこれたの。君のお陰が大きいけどね!」


「わかりました。俺にできることがあったら、なんでも言ってください!」


 出会ったときの姫島の境遇のことを思い出したが、どうやら杞憂だったらしい。

 彼女は強い。人気ダイバーとして生きているだけはある。


 その胆力と誇りに、ユウジは改めて感銘を受けた。

 だからこそ、力になりたい。


 ユニットを組んで対等となりえた今でなお、憧れの存在だから。


「────! ユウジ君、あれ!」


「な!?」


 指差す方向。そこには風船のように巨大に膨れた胴体をもつマジシャン風の人形が宙を浮いていた。


『HAHAHAHAHAHAHA、GAHAHAHAHAHAHAHA!!』


「なんだあのおっかなびっくり野郎は!?」


「……今までの敵とは大違いって感じね」


「つまり、ブッ倒せばいいってことか。シンプルでわかりやすい。相手もそうみたいだし」


 続く第二戦。

 マジシャンを相手にユウジはある可能性を脳裏に浮かべた。


 "……これはお近づきのしるしだ。このダンジョンで見つけた。君ならば使いこなせるかもしれない"


 ナーガ=ネガの贈り物。

 あの力をこの相手に試すか思考にふけりそうになったが一気に振り払う。


「さぁド派手にブッ飛ばしてやるぜ!」


『GAHAHAHA! イッツ・ショウ・タイム』

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