第66話 新たなアウター・ダンジョンへ!

「ごきげんよう」


「あ、えっとごきげんよう。じゃなくて、えーっと」


「そうかたくなる必要はありません。ダイバーとはいえ、わたしもただの人の子。マドカ・メリージェンヌ、それがわたしの名です。アナタは?」


「植芝玄斗。クロトでいいよ。その、俺はなにぶん不勉強でさ。アンタがどれだけ強いのかってのがわからない」


「まあ、そうでしたか。ですが、気にする必要はありません。わたしも有象無象にすぎぬ身です。一騎当千とふんぞり返るほどの度胸は持ち合わせておりませんゆえ」


「なるほどね。単刀直入に言うと、今回のは配信でもなんでもないし、今まで以上の危険がともなう。ただ武功を上げたいだとかいう奴もごめんだし、自信がないって奴もごめんだ」


「足手まといはいらぬ、ということですね。もっともな話です」


「……アンタはどっちだ?」


「どちらでもありません。己と目の前に映る人々を守るだけの力は兼ね備えているつもりです」


 クロトの目をしっかりと見、物怖じひとつなき佇まい。

 これでもかなりの修羅場をくぐり抜けてきたつもりだったが、マドカには一切の隙を見つけられなかった。


 脳内シミュレーション。

 ちょっとしたからかいも含んだあらゆる攻撃パターン。

 すべていなされ、組み伏せられる。


 間違いなく本物だ

 ただ向かい合っているだけなのに、負けた気がした。


「あの、なにか?」


「いや、その、手伝って、いただけます?」


「はい、よろこんで!」



 こうしてマドカの参入が決定。

 男は男同士で、女は女で座る。


「これがマドカのダンジョン配信な」


「あ~……たしかにこれは、だけど……」


「だけど、なんだ?」


「いや、別に」


「ユウジさん、メンバー会員になりませんか?」


「ねえユウジ、こっちきて座らない? アタシの隣でいいからさ」


(あらあら、取り合いしちゃって)


 和やかな空気を織り交ぜる中、バスはとどこおりなくまっすぐに、風背山市の西方にある仙宝町へと向かっていた。


 昭和の時代のにぎわいを錆と静けさに残すシャッター商店街の近く。

 バス停から降りた一行はのどかな道のりを進んでいった。


 すでにエージェントが待機しており、現場へと案内される。


「ここが、屋敷があった場所……」


「ホントに更地になってるじゃない。ねぇ、山本さんのご両親って今どうなの?」


「隣町にいるってさ。で、たまにここへ来るらしい。もしかしたら姉弟が見つかるんじゃないかって」


「なんだか、悲しいお話ですね」


「アウター・ダンジョンに入れば、なにかわかるかもしれない。どうも無関係とは思えないんだ。で、入り口はどこだ?」


「まぁあせりなさんな。ちゃんと案内してくれるよ」


 屋敷跡のすぐ近くの茂みにそれはあった。

 すでに入れるように準備はしてある。


 あとはこのまま入るだけ。


「よし、じゃあ、行くぞ!!」


 ユウジたちは勇み足で入るのだが、


「ちょ! なにこれ!?」


「おいおい、なんて次元流だ! こんなの聞いてねえぞ!」


「ま、まずいわ! 皆! バラバラにならないで!」


「うおおおお! 姫島さんが吹っ飛ばされそうっすよ!」


「ダメだ……もう遅い!!」


 突如現れた嵐のような奔流。

 5人がバラバラになりかける。


 だが勢いに飲まれて道を踏み外し、飛ばされていった。


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