第61話 乙女たちの道!

 勝負はまさしく一瞬だった。



 腰から鞘ごと抜いて猛突進してくるマナ。

 小太刀を抜き放ったかと思えば、鞘を投擲とうてきしてきた。


 マドカが回避したとき、すでにマナの姿はなかく、

 

「なっ!?」


 天狗飛斬てんぐとびきりの術。

 宙高く舞い、痺れる腕にムチ打って強烈な斬下きりおろしを放った。


「終わり、だぁあああ!!」


 マナの形相に迷いなき殺意が巡る。

 その一撃、瀑布ばくふ地を抉りとどろかせるがごとし。


 回避する間もない、だが、


「わたしのすべきことは、変わりません!」


 神速の無刀返し。

 小太刀を弾き飛ばしたときには、姿も気配もマナの視界から消えていた。


 次の瞬間には、マナは宙で数回転しながら地面に叩きつけられる。

 まるでお手本のような柔術めいた技が、マナの意識を飛ばした。



 マナが暗闇が目覚めたとき、視線の先には心配そうに見下ろすマドカがいた。


「マド、カ」


 頭にほどよいやわらかな感触。

 

「目が覚めましたね、マナ」


「ちょっと、どういう、つもりですの」


「アナタを野ざらしにしておくわけにはいきません」


「だからって、なんで膝枕なんか」


「昔、アナタにこうしてもらったから」


「くだらない……」


「ねえ、マナ」


「話し合う気はありません」


 マナは顔を背けた。


「今はなくとも、今後チャンスがあるかもしれません」


「ありません。あいかわらず無駄な努力がお好きなのですね」


「殺してしまったら、そんなチャンスすらなくなってしまいます」


「アナタの母君と、ワタクシを重ねているの?」


「そうかもしれません。わたしはどこまでも未練がましい臆病者です」


「よく言いますわね。ワタクシよりもずっと人気がありますのに。嫌味にしか聞こえませんわね」


 スッと身体を起こして泥を払う。

 マドカの制止も聞かず、振り向きもせず出口のほうへと向かっていった。


「マナ!」


「これでワタクシに勝ったと思わぬことですわ。お嬢様という看板、その程度で崩せはしませんことよ!」


 マドカはその背中を見送ることしかできなかった。

 お嬢様は遊びではない。ハンパな覚悟で背負えるものではないのだ。


 しかしなにはともあれ、戦いは終わった。

 急ぎユウジたちのもとへといきたいが、


「あぁ、ああああ……」


 その場にへたりこんだままうなだれる。


「こわ、かったぁ……」


 サラサラと髪が顔隠すようにおりて表情はみえない。


「あんな、本気で……斧振り回さなくても………すっごく怖い顔で、あぁあ、こわかった……」


 両手で顔をおおいながら、しばらくこのままだった。




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次話以降は10/21からスタートいたします


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