第60話 無刀返し・地走!

 無刀返しは当たれば強力無比な超接近型の技術。 

 ゆえに彼女に喧嘩を売るものはいないにひとしい。


 射程距離が極端に短いからこそ、それを活かす戦闘能力がケタ違いだから。

 しかし、そんなマドカの動きや癖を一から十まで知り尽くした者がいれば、よけるのも見切るのもたやすい。


(奇襲や下手なフェイントは通用しない。あの大斧、アーティファクトですか。衝突と同時に威力が相乗的に増しているのか……)


「無刀返し、しなさいよおおおおお。無刀返しいいいいいいいいいいい!! じゃないと真っ二つですわよおおお!! はよやれ食っちまうぞコラアアアアアアア!!」


「言われずとも……ええ、無刀返しを披露してあげましょう」


「!!」


「ですが、これを使えばもう、アナタの敗北は決定です」


 左半身の空手にも似た構え。

 過去、幾度となく感じたことのある覇気。


 身がひりつく。

 吊り上がった口角がより吊り上がった。


「オホホホホホホヒハハハハハハハハハアハハアハアハハハハハハ! これですわぁあああ……」


 大斧を脇構えに。

 お互い次の神速を意識した硬直。


 マドカの覇気が強まっていくたびに、マナの殺意が零度となって空間を軋ませた。

 

(勝てる。そっ首、叩き落せる!!)


 勝ちを確信した。あの構えからの攻撃パターンをいくつか予見。

 肩や腕、そして構えからくる技の可動域は限られている。

 かりに大斧をかいくぐろうとも、小太刀術があるのだ。


「シュッ!!」


 地面が隆起するほどの踏み込みと爆速。

 見えない。それはいつしか神速の域へ。


 過去最速、過去最強、過去最高のコンディション。

 勝ったと思った。


 


「フッッッ!!」


(な、地面に!?)


 地面に向かって無刀返し。

 覇気をまとった掌底で地面を打った、その直後。


 ────ズパンッッッ!!


「ガッ!?」


「無刀返し・地走じばしり。覇気を地面に伝導させてアナタに当てました。これは、初めてでしたね」


「な、なん、で……っ!?」


 大斧が派手な音をたてて吹っ飛んだ。

 その拍子にバランスを崩しマドカの後方まで転げていった。


「奥義といえど、無刀返しの射程が極端に短いことなど重々承知しております。それが接近戦において不利を招くことすらも」


「う、ぐ……マ、ド、カぁぁぁあああ」


「わたしとて無敵ではありません。ですのでこうした派生技を会得しておく必要がありました。その技を、まさかアナタに使うことになるだなんて」


「ぬぐ、ぬおおおおお!!」


「無理をなさらないで。直接触れたわけではないので腕が痺れる程度ですんでいますが、アナタの場合かなりのスピードで迫ってきて、挙句受け身も取らないで派手に転んだんです。骨、折れているのでは?」


「お黙りなさい! たかだかこの程度でえええ!!」


 痺れる両腕を気迫だけで動かそうとしている。

 そして、


 ────ゴキンッ!


「ぬぐぅああ! くひ、ふぅ、これで肩は治りましたわあああっ!」


「正気じゃない。それだけでどうやって戦うというのです?」


「知りませんの? ワタクシはまだ死んでおりません。死んでいなければ、命絶えていなければ、無限の可能性があるものなのですわ! お嬢様はあきらめない。たとえ泥にまみれようと、這いずり回ろうと、何度だって立ち上がってやる! それが、ハァアッ! 紫吹マナなのです!」


「その腕では神道天狗流の小太刀は充分に振るえないでしょう。アナタ得意の立居合もままならぬというのに」


「ほざきなさい。いつまでも上から目線で。そう、その目、その態度! 昔から、それが気に入らないのよ!!」


 小太刀抜刀の準備。

 また向かってくる気だ。


 これが、最後の衝突になるだろう。

 勝負は一瞬で決まる。


「……マナ、わたしは負けません。アナタとも、話し合いたいから! もう一度、ちゃんと!」


 

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