第43話 もうひとりのお嬢様!

 ユウジはこの日別のダンジョンへおもむいていた。

 彼は内心焦っていたのかもしれない。


 もっと強くならなくてはならない。

 もっと速くなくてはならない。

 でなければエミとの約束は果たせない。


 前の日に紫吹マナの武勇を見てからか、自然と戦い方に力が入る。


 "お見事!"


 "こないだより腕上がったな"


 "ラッシュ・フォームも使いこなせてきたんじゃないの?" 


 "あいかわらず見えないケド"


 "ちょっと疲れてるんじゃない?"


 "休んで!"


「ふぅ、皆ありがとう。でも大丈夫だ。まだまだいける」


 "アイテムまだたくさんあるし1本使ったら?"


 "またアルデバランで配信もみたいし無茶はしないでね~"


「ん~、じゃあお言葉に甘えて、だな。……あ~まだユニット配信の予定は決まってないな。追って報告するってことで!」


 姫島とキララとはメッセージのやりとりや通話はしている。

 姫島は変わらず接してくれているが、キララはどこかぎこちない様子だった。


 ふたりにはだいぶ気をつかわせてしまっている。

 申し訳なさと、もうエミのような犠牲者を出したくないという思いが交差して心なしか所作ひとつひとつにどこか黒い気性が見え隠れした。


 ブラックボックスの件もある。

 今自分にできるのは、昨日の自分よりも強くなることだ。


「ここのボスは確かオークキングってやつだったな」


 "出たな力イズパワーの単純明快ボス"


 "これまでみたいに変にこった奴じゃなくてホントにパワータイプ"


 "ブレイク・フォームがうなるぜ!!"


 "いや、ラッシュ・フォームで翻弄するのも捨てがたい"


 "サムライ・フォームでザクザクやるのもいいな!"


 "いっそ全フォーム使っちまおう!"


「オーケー。今の俺の実力を試すにはちょうどいい。さぁいくぞ皆。準備はいいか!?」


 "オー!"


 "ユウジの強さ、俺たちにまた見せてくれ!"

 

 だがオークキングのいる区画に近づいたとき、妙な爆音を聞いた。

 空気と芯に伝わる振動でわかる。誰かが戦っている。


「────っ!!」


 言葉もなくユウジは駆け抜ける。

 そこにはオークキングと戦う3人の少女たちがいた。


 キララよりも少し幼い。中学生くらいか。


「うわぁあああ!!」


「ヤバい、強すぎるよ……!」


「まずいわね。このままじゃ! ……ハッ! 危ない!!」


 オークキングが棍棒を3人に振り下ろす。

 3人は同時に死を確信した。


 だが、それはすぐに打ち消される。


「大丈夫か!?」


「え?」


「あ、アナタは!?」


「説明はあとだ! 下がってろ!!」


 3人をかばうように棍棒を受け止めてからはじき返す。

 圧倒的なパワーを秘めるブレイク・フォームならたやすいことだ。


 3人は羨望の目で見ながらもへたりこんでしまう。


「おい……」


「グルルルルル……」


「悪いけどよ。見殺しなんてできないんだ」


 フルフェイスの奥のユウジの瞳がドス黒く光る。

 以前にはないほどの邪悪な殺意をおびながら、オークキングへと躍り出た。

 

 その戦闘はまさに鬼神の如し。

 

「オ˝オ˝ォ˝ォ˝オ˝オ˝ォ˝オ˝ッラ˝ッッッ!!」


「グガァアア!」


「ヌァアアアアアア!!」


「ギアアアアアアアアア!!」


「え、ちょっと……なに、あの、つよさ……」


「こ、こわいよ……いくらなんでも……っ!」


「あ、あぁ……」


 3人はユウジの強さと戦い方に恐怖を抱く。

 強い妄念が過剰に力を与え、アーマーを真っ赤に染め上げていった。


 ────ぶっ殺しますわああああああああああああ!!


「ウォオオオオオオオオ!!」


 ────やられる前に、やるんですわああああああああ!!


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 ────力こそすべてを解決するんですわあああああああ!!


「ドリャアアアアアア!!」


「ガァアアアアアア!?」


 幻聴が心地いい。


「ひぃ!?」


「ヤダ……もう、やめて……!」


「う!?」


 オークキングの腕を引きちぎった。


 ひとりは顔を背けながら手でおおう。

 これにはコメント欄も呆然としているようだった。


 暴力への肯定感・暴力への快楽に目覚めかけているかのよう。

 紫吹マナの声が、藤原エミの無残なあの姿が、ユウジの凶行を加速させた。

 


 ────だが。




「迷えるお人に、救いあれ」


 やわらかい春風のように澄んだ声。

 まだ少女の声調だろうが、確かな気品と力強さがある。 


 生命そのものが呼応するように、ダイバーたちに優しく響いた。

 

 

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