第44話 奥義・無刀返し!
怒りが、憎しみが、快楽が。
あれほどたかぶっていた気がおさまっていく。
握りしめた拳が自然とゆるまっていった。
「あの人は……」
「噓でしょ、なんでレジェンドがここに!?」
「レジェンド?」
ユウジの視線の先にある神秘的な光景。
薄紫色の二段構造のバトルドレスに身を包んだ少女が優雅に舞い降りてくる。
世にいうスーパーヒーロー着地があるように、お嬢様関連でもそういった着地がいくつかあるようだ。
スカートの端をつまむように持ちながら、ふんわりと着地。
礼をするように頭を軽く下げ、伏せ目がちの瞳をゆっくりと開けて微笑む。
曰く、エレガントレディーお着地。
その瞬間に宙に舞う色とりどりのバラの花びらをかたどった光が空間いっぱいに広がっていく。
「拳の強さに己を見失っては、元も子もありません。どうか、落ち着きになられて」
「あ、あぁ……。あの、アンタは一体?」
はっきり言って畏敬をしめさずにはいられない。
自分よりも年下の少女、おそらくキララとそう変わらない。
だがその容姿容貌に秘めるカリスマ性はもはや化生の領域。
「お話はあと。今はあの魔物を……」
「あ、ああ! わかった!」
「アナタは下がっていてください」
「え? いや、なんで! 俺も一緒に」
「今のアナタは修羅に近い。これ以上は無駄な血を流すこともないでしょう。……そこのお三方を守っていただけると嬉しいですわ」
戦場に似つかわしくないほどの微笑みを向けたあと、壁にもたれかかって立っているオークキングに目を向けた。
目つきはお嬢様から戦乙女へ。
双方が戦意を向けた。
オークキングは腕を引きちぎられた怒りでより攻撃性が増している。
しかし少女の凛とした佇まいと視線に恐れはない。
彼女は歩き出す。
歩くたびに、植物が生い茂るかのような光のエフェクトが現れ、花びらのように消えていく。
まさしく優雅。
「グォオオオオオオオオオオオ!!」
(どうする気だ!? アイツ無手だぞ!?)
振り下ろされる棍棒に対し、彼女の動きは依然ゆるやか。
しかし次の瞬間には、
────ズパァァァンッ!!
少女の掌底がオークキングの腕に命中すると、勢いよく体をのけぞらせ、棍棒を後方へと弾き落した。
オークキングもなにが起こったのかサッパリといった感じなのと、腕に来る異様なしびれが戦意を一気にそいだ。
だが息をつかせる間もなく、少女の
豪速の身体捌きと、合気道のように流麗な投げ技がかの巨体をいともたやすく転がした。
オークキングは戦意を完全にうしない、そのまま走って逃げていく。
「すごい……『あれ』を生で見られるなんて……っ」
「あれって、さっきの技か? そりゃああのでっかいオークキングを投げたのはすごいけど」
「違います! あの棍棒を弾く技です! もしかしてあの人のこと知らないんですか!?」
「え?」
「あれは……【奥義・
────マドカ・メリージェンヌ様!!
(……ま、またお嬢様だとぉお!?)
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