第42話 マナの部、屋……?

「はい、リスナーの皆様方♪ 本日のスペシャルゲスト津川ユウジ様と一緒に、お馴染みの『ダンジョンDEティータイム』を催しておりますわ」


「あ、はい、よろしくお願いします……わ?」


 "まぁ凛々しい殿方!"


 "この方有名なダイバーでしてよ!"


 "あの力を見たときもしやと思いましたが……今日は神回ですわ~!"


 "偶然修行にきてたとかタイミング良すぎておハーブ生えますわ"


 某番組のテーマ曲が流れてきそうな雰囲気と思ったら大間違いだ。

 アイテムボックスからなんとティーセットを用意して、さっきまで殺戮を行っていた場所でお茶会をしようだなんて言い出すものだから色々と感覚がバグっていく。


 なにより血の臭いがえぐい。


「ホホホ、さぁ召し上がれ。アップルティーとアップルパイをご用意いたしましたの。アップル尽くしですの。アップルパーティーですわ!」


「ア、ハイ」


「オホホ、緊張なさらないで。ワタクシのリスナーは皆様お上品な方ばかりでしてよ」


「いや、そういう問題じゃない。その……なんだ。この場所でやるの? お茶会」


「これは異なことを。己が手柄を肴に飲むお茶こそ……紫吹マナ流ティータイムの醍醐味ですわ!!」


「えぇ……」


 "あらあら、混乱していましてよ"


 "お嬢様の道は奥が深いのですわ"


 "よう新人、こういうのは初めてかですわあああああ!!"


 "マナお嬢様がその気になれば滴る血ですらお茶になりましてよ"


(マジかよ……ハッ、ダメだダメだ。おされ気味になってる。俺だってチャンネル登録者数キチッと持たせてもらってるダイバーなんだ。シャンとしなくちゃな)


「どうかなさいまして?」


「いや、なんでもない。いただくよ。……これもしかして、全部アンタの手作りか?」


「いいえ、近所のスーパーで買ってまいりましたの」


「……紅茶は?」


「午●ティーですわ!!」


(キャラが読めねえ!?)


「今のワタクシではお菓子作りもままなりません。ですが一流の令嬢レディを目指す者として、いつか必ずお菓子作りも紅茶淹れもマスターしてみせますわああああ!!」


「お、おお! 前向きでいいな。ちなみにだけど、アンタはなにが得意なんだ?」


「殲滅ですわ! 斬首ですわ! 見敵必殺ですわ!」


 お嬢様の概念がバグり始めたユウジ。


「あとそれと……う~ん、────ハッ!」


 マナが振り向くと同時に腰の小太刀を引き抜いた。

 ニンジャ・ゴブリンがここにもいたようで、その喉に一気に食い込ませる。


「……神道天狗流の小太刀術を少々」


「なにその流派すげぇ」


 倒れるニンジャ・ゴブリンから小太刀を引き抜いて、曲げた肘で挟むように刀身の血をぬぐった。


「あ、といいましてもまだまだ粗削りでしてっ! その筋の練達の方々に言わせれば全然でしてっ! 語ることも名乗ることも本来おこがましいと申しますか、その、キャー恥ずかしいっ!」


 目の前の光景が目まぐるしく変わるせいで感情が追いつかない。


「いや、すごい腕だよアンタ。でもやっぱり危なくないか? 敵地のど真ん中だぜここ?」


「敵地のど真ん中だからこそ優雅に、ですわ! 我が首を狙う者、それすなわち逆に首をとられる覚悟を決めた者である証! 殺気を見抜くなど乱戦よりもたやすいですわ! やられる前にやるっ、ですわー!!」


(これが、強さなのか?)


 生まれる時代を数百年単位で間違えてるんじゃなかろうかと思うほどにバーサーカー。

 地面に突き立ててある大きな斧はアーティファクトだろうか。


 明らかに華奢な肉体であるにも関わらずあの超人的なパワーとスピードを持つ彼女にとって、この斧はきっと最高の相棒なのだろう。


 だいぶ使い込んでいるのか、ところどころ変色していた。

 

(ダイバーにはいろんな奴がいる。姫島さんやキララみたいにビジュアルに気合いれてるダイバーもいれば、うんちくでもなんでも披露して自分を大きく見せるセブンスター陽介みたいなのも……。でも、コイツは断然違う。お嬢様系でやってるけど中身は別ものだ)


 ダイバーの数だけ特徴があり個性がある。

 それでいい。リスナーもそれを承知で楽しむのだ。


 しかし中には過激なダイバーもいる。

 思想や戦い方。その熱に心を揺さぶられ、血き肉おどる感動を覚えるのだ。

 つまるところ、"刺激"。


 このお嬢様系ダイバー、紫吹マナはその部類に属するだろう猛者のひとりなのだ。

 だが少なくとも、今のユウジの心に強い衝撃を与えるものだった。


「さぁ、もっと語り合いましょう。時間はたっぷりありましてよ♪」


「よ、よろしく!」


 初見インパクトだけでも胃もたれを起こしそうなダイバーと出会ったが、もうこれ以上はないだろうと思ったところ、その予想は次の日には打ち消されることとなる。


 お嬢様からは逃れられない。


 

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