第41話 お嬢様ですわああああああああ!

「ふっ! はっ! でやぁあああ!!」


「グギャアア!!」


 本日は配信オフ。

 腕を磨くために修行と称してダンジョンへおもむいていた。


 今いるダンジョンは薄気味悪さと宝のなさから人気の少ない場所なので配信には向いていない場所とされており、もっぱらダイバーたちの修行場と化している。


「さぁこい! こんなんじゃ足りねえぞ!」


「グググ……」


 複数の魔物に囲まれる中でブレイク・フォーム、ラッシュ・フォーム、サムライ・フォームと使い分けながら相手取っていく。


 急な状態変化や環境変化になれるための無茶だ。

 変身にはひと呼吸いるのだが、それもなしに自分を追い込みながら一匹、また一匹とほうむっていった。 


「ゼェ、ゼェ……まだだ。まだいけるぞ!」

 

 肉体の疲弊に反して、精神は戦いを求める。

 ユウジにあるのは、今までにないほどの強さへの焦り。


 もうなにも失わせないという渇望。


 そう、これでいい。

 これでいいと思っていた。


 このペースなら今いる魔物を全滅させることはできる。

 だが、ここで想定外が起きた。


 いや、本当に想定外。

 誰が予想できるか。




「キィェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


「は? え?」


 その日、津川ユウジは恐怖した。

 なんか奇声をあげる令嬢のような女が、やたらデカい斧を引っさげて薩摩武士のように突っこんでいくさまに。


 ────ザクン!


 キャベツを切ったような小気味いい音と血肉が飛び散る音が響く。

 

「敵にたぎるは乙女のサガ!! 刃の錆になってくださいましいいいいいい!!」


「え、ちょ、おい……アンタ」


「そして大将首を上げるのは、お嬢様の務めですわぁああああああ!!」


 その人はダイバーだったのだろう。

 ユウジの制止も止めず配信を続けていた。


「さぁさぁ魔物の皆様方! このダイバー令嬢"紫吹しぶきマナ"の手柄となってくださいまし~♪」


「ギ、ギェェェ」


「グルルルルル……」


 分厚い斧が魔物の肉体を叩き斬っていく。

 嬉々とした表情で敵陣を突っ込むさまは、まるで死すら楽しむよう。


「く、なにやってんだアイツ!!」


 ユウジも向かう。


「おい! アンタなにやってんだ!?」


「アハッ!! ステキな甲冑をまとった殿方にお会いしましたわああ!! ワタクシ、紫吹マナ。紫吹マナでございますわああああああ!!」


「ブッタ斬りながら自己紹介してんじゃねえよ!! つか、今配信中!? こんなところでか!?」


「はい! 魔物100体KILL斬るまで帰れませんスペシャル配信! トラブル上等、割り込み歓迎のグランドステージですわあああああ! アーッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」


 "キャー、マナお嬢様ー!!"


 "これで53体目。記録更新ですわー!!"


 "斧捌きお見事でございますわー!"


(こ、この人のコメント欄……なんかスゲーことになってる。な、なんだぁ?)


 お嬢様系ダイバーは数多くいるものの、そこまで興味を持っていなかった。

 実際出会ってみた印象があまりにも強烈すぎて、自分の本来の目的を忘れてしまうほどに。


 瞳孔の開いた瞳で満面の笑みを浮かべてそのまま斬り続けるが、そのぶん傷が半端ないことにユウジは気がつく。

 どうやら終わるまで回復はしないとのことだ。


「あぁ、左腕が負傷してしまいましたわ。でもまだ右腕があります! 命があります! このふたつがあれば、未来は無限の可能性に満ち溢れていますわあああ!!」


「だぁあああ!! バカやめろ!!」


「アハッ! なんですの邪魔しますの!? 大歓迎でしてよ!!」


「しねえよ!! 俺も戦うって言ってんだ!!」


「アハッ!! 協力プレイも大歓迎ですわあああああ!!」


「ったく、猪突猛進にもほどがあるぜ!」


「さぁ残り48匹!! はりきって行きますわよおおおお!! キィェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」 


「キ、キィェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


 魔物たちは恐れおののいた。

 猿叫えんきょうを繰り出すお嬢様系ダイバーと、サムライ・フォームで同じように叫びながら迫る津川ユウジに。


 その後の展開は言わずもがな……。

 ユウジですら想定していない血の海が延々と広がっていた。

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