第32話 心配だけど俺たちは行くぜ!
「せっかくのコラボでわかれて行動だなんてなぁ」
「なんだか久しぶりねぇ。モミジ谷でもそうだったじゃない」
「あぁそういえば」
「ちょ、人の黒歴史を引っ張りだしてきて~……」
「アナタ方アルデバラン結成の記念すべき配信ですね。わたしも視聴いたしました。風情ある場所でしたね」
「観光には向かないけどねー」
「そういや気になってたんですけど、あの、シスター・アルベリーさんは姫島さんと知り合いなんスか?」
「彼女とはあるダンジョンで知り合ったもので……」
「私が配信してるときにね」
「はい、武者修行と言えば大袈裟かもしれませんが、映りこんでしまってから、その……」
「シスター・アルベリーのチャンネルがバズってしまいましたってことよ」
「あ、思い出した! あったあったそういうの!!」
「なに、忘れてたの? 姫島さんの配信ずっと見てたんでしょ?」
「いや、さすがに一言一句覚えてるわけでもないし、その、そのころは姫島さんの配信をずっと見るので、あははは」
「プライベートで話してみてもすっごく気が合ってね。付き合いはそこからかな」
シスター・アルベリーは多くを語らない。
それは距離を置いているというよりも、静かに見守っていると言ったほうが正しいかもしれない。
セルフ懺悔室などと言われたこともあるようで、たとえなにかがあっても彼女から問うことは珍しいことのようだ。
……なお、常に言葉などの発信していく配信者にとってはある種致命的かもしれないが、本人のそういう雰囲気が好きだという人もあり、雑談配信ではもうリスナーの懺悔がメインになってしまっている。
ちなみに、姫島もリスナーとしてちょろっと参加したことがあるようだ。
「ヴィリストン姫島が殿方と一緒に組むというのを聞いて驚きましたが、津川ユウジ、アナタのような人で安心いたしました」
「いやぁ、そんな、俺なんかアハハハハハハ」
「謙遜せずとも大丈夫ですよ。それにエミ・アンジェラの様子もみれば、アナタがどういう人であったかも想像がつきます」
「エミ……あぁ、ま、高校時代のダチっすから」
"エミ・アンジェラと同級生、なんかめっちゃ強いのわかる気がするw"
"なんかわりとふたりバケモノなんよな"
"シスター・アルベリーとヴィリストン姫島はプライベートでなんかやってるの?"
「プライベートで……? ん~、実はそこまで関わることなかったのよねぇ。お互い忙しいし」
「今度お酒を飲みに行く約束をいたしました」
"あっ"
"あ……"
"(死亡フラグ)"
「え、死亡フラグ、とは? これは言ってはならないワードなのですか?」
「はいリスナーの皆ちゃかさないねー。シスター・アルベリー、気にしなくていいから。一部の人がふざけて言ってるだけだから」
"草"
"サーセンw"
"お酒なにが好き?"
「それはもう、ウイスキーでもカクテルでも、あ、最近は配信終わりのビールがとてもおいしいと感じるようになって……」
"酒豪シスター"
"OLシスター"
"バーボンをストレートで飲んでも酔わなさそう"
「……もう、人をからかってぇ」
「ふふふ、ホントのことじゃない」
「大人ってお酒好きだよねぇ。ユウジは飲むの?」
「え? 俺ぇ? ジンジャーエール飲めりゃ酒とかなくてもよくないか? つか酒ってあんま好きじゃない」
"はい宣戦布告"
"酒好きワイ、ユウジに否定される"
"許さない、許さないぞ津川ユウジ……っ!"
「いや、なんでだよ!!」
「あー、ジンジャーエールおいしいよね。アタシも食事会とか行くとき大抵それ飲んでる」
「あ、キララもか。やっぱうまいよな」
”さすがはキララ”
"さすキラ"
"やはりジンジャーエールが至高"
"酒? なにそれ?"
"酒やめてジンジャーエール飲むわ"
"手のひらグルングルンで草"
"おまえらw"
たわいのない会話をすること十数分、ついにあのドラゴンが現れる。
大地に座り込むようにしてジッと一行を見ていた。
「あのヤロウ、また待ち構えてやがったのか!」
「じっとこちらを見てますね」
「油断は禁物よ。フォーメーションはさっきと同じ。キララ、いいわね」
「オッケー。いつでもいいよ!!」
「うっし、今度はヘマしねえからな!!」
4人が身構える。
魔物の幻影が現れるが、距離をつめていくにはさほど苦労はしない数だった。
「あ! アイツ逃げやがった!」
「いや、逃げたっていうか、スライド移動した!?」
「ボヤボヤしてられないわ。今度は魔物が囲むみたいに現れた!」
「なるほど、少数の魔物を召喚し、おびき出してから一気に増やす。なかなかの策士ですね」
とはいえ、この流れに違和感があった。
(騎士竜ウィルゴー……先ほどからジッと見てばかり。それにさっきの奴の動き。なんでしょう。我々は大事ななにかを見落としている?)
スライド移動という珍妙な移動法で向こう側、さらに向こう側へと行くドラゴンに一行は四苦八苦しながらも進んでいく。
一方、エミは例の現場で陽介との捜索を手伝っていた。
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