第31話 お前との約束だ!

(クソ、クソクソクソクソ!! コイツばっかり目立ちやがって。本当ならボクが皆の中心にいるべきなんだぞ! 仮にもボクはお前の先輩で! ボクのほうが世界を知っているんだぞ! もっと敬意を払えよ!)


「まぁ。アンタがそういうなら余計なお節介だったな。でも、無理はしないでくれよ」


「ふん!!」


「ユウジ!」


「ん、キララどうした!」


「魔物はあらかた片づけたんだけど……」


「んん? あっ! さっきのもやが!」


「見て、どんどん復活していってる」


 ミキもまた攻撃をやめて距離をとる。


「ダメだね。これじゃキリがない。おそらくあたしらがずっといる限り記憶の中にいる魔物を召喚し続ける」


「ヤバいな。これじゃ確かにジリ貧だ。……時間がかかるだけじゃない。色んなダンジョンのボスまで召喚されたらひとたまりもないぞ」


「ありゃあ~、それはたしかに、ヤバいかもね」


「ユウジ君、キララ、皆! 一旦引きましょう!!」


「ハァァァ!? 来たばかりなのに退けっていうのか!? そんなの海外じゃ笑い者だぜ!?」


「アンタ、今の状況わかって言ってんの!?」


「そ、それは、その……!!」


「アンタなにかにつけて海外海外って……────」


「キララ、喧嘩はあとだ。今は逃げるぞ。アンタもそれでいいな!」


「わ、わかったぁ……」


 歯ぎしりしながら一向とともに入り口付近まで退散するも、このとき長年愛用していたアクセサリーのひとつを、ふとした拍子に落としてしまった。


 それに気づいたのは比較的安全な中継ポイントでのこと。

 

「しまった! あれを落としたか……クソクソクソ! いいことなしだ!」


「セブンスターさんよ。今は皆無事だったことを……」


「あのなぁ! あれは20万もする魔力アクセサリーなんだ! 海外のマーケットじゃないと売ってない高級品なんだよ!」


「お、俺に当たらないでくれよ」


「ユウジほっときなって」


「もういい。自分でいく!」


「行くってどこに!?」


「決まってんだろ! さっきの戦いでハギトリアに襲われた場所だ! きっとあのときに落としたんだ」


「待てよ。今いくのは危険すぎる!」


「ボクひとりでいいって言ってるだろ!」


「お待ちくださいセブンスター陽介。さきの戦闘で敵がどれだけ手ごわいかわからないアナタではないでしょう。ここは作戦を練り直し、集団で行くべきです」


「そんなことをしている間に余計見つかりづらくなったらどうするんだ!」


 陽介はもう冷静ではなくなっていた。

 

「わかった。じゃあせめて俺が一緒にいく」


「はぁ!? いらないって言ってるだろ!」


「そういうわけにはいかない! 相手は敵を無限湧きさせるドラゴンだ! ひとりにはさせられない!」


「ユウジちょっと!」


「ユウジ君だけじゃ危ないと思うし、それに今は……」


 セブンスター陽介を中心にパーティーが瓦解し始めていた。

 その気配を感じ取っていたエミ・アンジェラが声を上げる。


「はいストップストップ!! 皆やめやめ! カメラ一旦中止にしてるとはいえまだ配信は始まったばかりなんだよ? こんなギスギスしたメンバーをリスナーに見せちゃダメ!」


「エミ……」


「陽介さんはアクセサリーを取り戻したい、そうですよね?」


「あ、あぁ」


「んで、皆は協力してダンジョン攻略しつつ、配信でいいところ見せたい」


「ま、まぁそういう感じになるかなぁ」


「否定はいたしません」


「エミ・アンジェラ、なにをするつもりなの?」


「どっちも譲れない思いがある。じゃあさ。ユウジがやろうとしてたみたいに二手にわかれよ」


「いや、だからボクひとりで……」


「ユウジについてこられるのが嫌なら、あたしが一緒に行きます。これならどうですか?」


「な、なに? ……ふ、ふーん。なるほど。それはいいね。ふふふ。すまないみんな。少し慌ててしまったようだ。どんな配信にもトラブルはつきものだ。それを失念してしまったとは、我ながら情けなかったよ」


 女性と同伴。

 この条件がほんの少し彼の感情を和らげた。


 エミ特有の柔らかな笑みで自分の味方をしてくれていると思った陽介は快諾。

 30分の休憩ののち、出発が決まった。



「……おいエミ。本当にいいのか?」


「いいよ。このままだと配信どころじゃなくなってリスナーも皆も嫌な思いするだろうし。それに、実際あの人には前に世話になったんだ。これが恩返しになればいいと思ってさ」


「そう、なのか」


「それにさ、配信が今中止になるのは……」


「お前の、お母さんか?」


「うん、もうすぐ手術なんだ」


「手術……そう、なのか」


「うん、難しい手術で、ちょっとまとまったお金がいるんだ」


「神様がくれたチャンスっていうのはそういうことなんだな?」


「……あのとき、卒業旅行ぐらいウチのことは気にせず行って来いって、お金渡してくれてさ。あのときのお母さんの顔が忘れられなくてさ。あぁ、絶対この人助けたいって」


「そっか」


「こないだ病院でね。無茶ばかりするなって、お母さんに前に言われちゃったよ。たはは。ダイバーやってるのバレてさ。そりゃそうだよね。危ないことで稼ぎまくって自分の治療費にあててたらそりゃあね」


 高校時代、彼女の父親が務める会社の倒産を機に、母親と父親は離婚。

 母にだけ無理はさせられないとバイトをして家計を助け、大学への進学を諦めて仕事をする道へと行く。


 だが卒業も近い時期になって無理がたたったのか母親は病床に臥せった。


「お金があれば助けられる。そのための力があたしにある」


「でも、なんだか……お前もしかして無理してないか?」


「全然っ! むしろ、ヒーローみたいでカッコイイ人生歩めてるなってワクワクしてるよ!」


 そう、彼女は昔から変わらない。


「そういうアンタは?」


「え、俺? おぉ、そうだな。なんか、自分でも怖いくらいうまくいってるよ」


「でしょう? アンタもあたしと同じなの。これからなんだよ」


「……あぁ、そうだな」


「ユウジ。あたしはアンタならどんな苦難や悲しみも乗り越えられるって信じてる。だからあたしよりもビッグになんなさいよ!」


「つらいことも楽しいことも全部ふくめて、パーッと生きろってか? おう、わかってるよ!」


「うし、じゃあなにかあったらお互い連絡しよ?」


「連絡の取りあいだな。いいだろう」


 30分後、一行は二手にわかれての行動をする。

 ユウジたちは先ほどの戦闘の場から迂回するルートで行き、陽介とエミはそのまま進んだ。


 

 

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