第33話 そんなのウソだ!

「探し物配信っていうのもなんだか久しぶりな気がしますよ」


「ハハハ、悪いね。このボクのミスにつきあわせてしまって」


「いえいえ、……でも、なんだろう。妙に静かだなぁ」


「ん~なんだい? 心配してるのかな? 大丈夫だよ。ここの魔物は基本的にあのドラゴンとそいつが生み出す幻影。今は奴はいない」


「だといいですけど……」


 ────カラカラ、サラサラサラ……。


「ん。なに今の音……?」


「……おいおい、冗談だろう? ここにはボクらしかいないはずだぞ。なんだこの、嫌な気配は?」


 エミはスマホに手を伸ばし連絡を取ろうとした直後、『それ』はいきなり現れる。

 周囲の環境や風景に溶け込むようにステルス形態であったウィルゴーがぬらりと現れ、なめまわすように見下ろした。


「……あぁ、まずい!!」


「う、うわぁあ! うわぁああああ!!」


 エミはウィルゴーに立ち向かう。

 こんなところで死ぬわけにはいかないと蹴り技を駆使して戦った。


(な、なんだと……エミ・アンジェラの攻撃が全然食らってないじゃないか!! こ、これは、まずい!)


「陽介さん! 魔法で援護を! あとアナタが最近手に入れたっていう秘密兵器ってやつを……!」


「え、で、でもあれはまだ扱いが! ……クソ、わかったやってみる!」


 取り出したのは黒いキューブ。

 だがその効果は異形の姿となって発揮するも、邪悪なドラゴンには及ばなかった。


 そればかりか、人間を傷つけたいという欲求が抑えきれないほどにあらわれ────。


 ザクゥ!!


「痛゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」


『あ、し、しま……違う、ボクは! ひぃいいい!』


 変身を解いた陽介は失敗と恐怖から戦意をうしない、傷ついたエミを見捨ててバタバタと這いずるように逃げる。

 それを見て絶望の色が心を覆っていく。


「そ、そんな……陽介さん逃げないで! お願い、見捨て、ない、で……キャアアア!!」


 D・アイは破壊されるその瞬間までずっと映していた。

 これまでの陽介の行動と、しっぽを巻いてどこかへ無様に逃げる姿。


 そして。


 噛みつかれ、叩き付けられ、炎であぶられ、それでも立ち向かうエミ・アンジェラの姿を。

 だが、限界は訪れた────。



「クソ! どこまで逃げやがんだ!」


「津川ユウジ、これ以上は追っても無駄でしょう」


「はぁ!? そりゃどういう……」


「これは罠です。さっきからずっと、もう一方と遠ざけられています」


「そ、そう言えば……」


「それだけではありません。ダンジョンの奥へ奥へと誘い込まれているように思えます。深追いはすべきではないかと」


「クソ、だとすりゃ……」


「撤退ね。キララもそれでいいわね」


「いいもなにもそれしかないでしょ! 倒したってキリないし追いかけてもどっかいくし!」


 魔物を振り切り4人はもと来た道をたどる。

 騙されたことに腹を立てている暇はない。


 こちらが策にかかったということは、あちらもそうである可能性もある。

 しかもあちらはふたり。


「クソー、めっちゃ追いかけたからめっちゃ距離あんぞ!」


「でも追いかけてくる気配はないみたい」


「おそらくですが、あのドラゴンもまた『幻影』なのでしょう」


「幻影? どうして……」


「つまりこういうことっしょ? アイツ、目がいいだろうからきっと二手にわかれたのを知ったんだ。それで…………」


「互いを遠ざけるためにこんなことを? 騎士竜ってわりには超姑息じゃん」


「それだけ狡猾な魔物もいるって話よ。高難易度だからって腕っぷしだけが強いなんてのは、ちょっと固定観念だったかもね」


 しばらく走っていると前方に人影が見える。

 ヨロヨロと歩くその姿に見覚えがあった。


「エミ!!」


 駆け寄ろうとするも、またもや幻影の群れにはばまれる。

 エミのきらびやかで派手な衣装はところどころボロボロになり血がにじんでいた。


 どれだけひどい目にあったか想像がつくほどに。

 

「エミ! 待ってろ今行くからな!!」


「ユウ、ジ……だ、め……」


「エミ、なにいって……クソ、どけええ!!」


「逃げてっ……みんな……あぁ!」


 直後、本物のウィルゴーが彼女の背後に現れる。

 手でこずくようにエミの背中を押すと、前のめりに彼女が倒れた。


「ごめん……ユウジ」


「なに言ってんだ……なに言ってんだよお前!!」


「────ユウジ」


 彼女は最期、ぺたんと座るようにして、悲しく笑った。


 ────グキグキグキ、ゴキン!!


 全員が、彼女の首からなるその音に怖気を走らせる。

 

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