第21話 もうすぐでラスボスに!
ユウジは川辺を越えて進んでいくと、内裏へと続くであろう道が舗装されていた。
朽ちた回廊が設けられた道には紅葉はなく、かわりに錆びた刀と矢が突き刺さり、そして鬼の絵がつらつらと描かれている。
「なんかここはさびしい場所だな」
進んでいくにつれ鬼の描写に気迫が伝わってくる。
歴史に詳しいリスナーの知識にこんなものがあった。
『芦辺と鬼の伝説』というものだ。
芦辺という名の貴族が、強い鬼を仲間にしようと自らの領地に住まわせたところ、鬼たちは領民たちに牙をむき、宝や食料、そして女子供をさらっては乱暴狼藉を働いたという。
困り果てた領民たちは、かの名高き源頼光に事情を話すと、頼光はすぐさま一軍を率いて鬼退治へ向かった。
"芦辺殿の鬼、お返しいたす。民たちの宝を返していただきたい"
この言葉とともに討ちとった鬼の首20個を芦辺に献上すると、芦辺は真っ青になって残りの鬼とともにどこかへ逃げ去っていったという。
一説によれば、芦辺と鬼たちが落ち延びた場所こそがこの風背山のモミジ谷ではないかとされているのだ。
「うおお……桃太郎みたいな話出てきた。こういうのがあるのが、配信の
"ナイスアイディア!"
"リスナーを伝令代わりにするとは"
"しゃーない"
"ヴィリストン姫島とキララは大回りして建物に向かってるみたい"
"月の位置から角度的に今どこにいるのかとか、ユウジの位置からどこまで離れてるのか計算してるリスナーいてワロタw"
"マジだ……"
"え、そんなの計算できんの?"
「おいなんかスゲェ奴いねぇか? まぁいい。とにかく進もう。建物の中に敵がいないわけでもねえだろうしな」
回廊を進んでいくと上へと続く洞穴があり、登るとさらに心奪われる光景が広がっていた。
遠目にみたあの建造物。
そしてその奥にある広々とした湖。
湖の周りにはいくつもの祭壇や高舞台が設置され、今にも荘厳な
「あの湖がゴールか? ともかく建物の中へ入らないとな」
"気を付けて!"
"中にもあのわけわからん武者がいるかも"
"また歴史っぽいものがあれば報告してほしいな"
"やっべ、めっちゃドキドキしてきた"
途中岩や木々に覆われたジグザグの道にてこずりながらも、裏口付近へとたどり着いた。
「うわ……腐った木の臭いかこれ。なんだよ中めっちゃ荒れてんじゃねえか。ちょっとムワッとするし」
"マジで廃れてんね"
"諸行無常……"
"盛者必衰?"
"まぁダンジョンだから衰退もクソもないんだけどな"
"たしかに中はガランとしてて生活感ないね"
"宝とかなさそう。いや、なんか歴史的な書物すらねえ"
"人が住んでたってわけでもないしね"
"チッ、シケてやがる"
"湿気だけに?"
"↑ 黙れ"
"↑ 審議拒否"
"↑ あ? 殺すぞ?"
"辛辣すぎて草"
「そういう書物はともかくとして、宝がないのはちょっとさびしいな。まぁ奥まで行ってみるか」
ギシギシと軋む床板。
薄暗くジメジメとした空気がみょうに首筋にねばついた。
古びた壁にお経のような落書きがあるがよく読めないし興味もない。
……ミシ。
(今の音……)
ユウジは足を止め神経を研ぎ澄ませる。
次の瞬間には壁、床、そして天井から何者かが飛び出してきた。
「【変 身】!」
ブレイク・フォームの変身の勢いを利用し敵襲を跳ね飛ばす。
敵は3人、顔も紺色の布で覆った偉丈夫。
「こいつらは……D・アイ!」
『"ニンジャ・ゴブリン"。より戦闘と隠密行動に特化した特別種。本物の忍者のように忍術を使いこなし、鍛え上げられた筋肉からなる体術はウラグモ衆にも引けを取らないという噂もあります』
"忍者!?"
"ゴブリンが忍者!?"
"ニンジャきちゃああ!!"
"なんで忍者!?"
「忍者忍者言ってる場合じゃねえ! やっぱり敵が潜んでやがったな!」
逆手、霞の構えとそれぞれ刀を構えるニンジャ・ゴブリン。
じりじりと距離を詰めてきたと思えば、俊敏な動きで飛びかかってくる。
「武者だろうが忍者だろうが関係あるか! かかってきやがれ!」
回転するようなすり足で3歩、両手のトンファーで7振り。
勝負は一瞬でついた。
刀を砕き、それぞれの胴体に鋭く打ち込んでいくと、壁や天井を突き破って吹っ飛び、敵は沈黙する。
"お見事!"
"やっぱ強くなってんな"
"そりゃウラグモ衆相手にあそこまでやったんだもん。強いに決まってる"
"連戦でここまでやれるかって話"
"ユウジはバケモノだった?"
「なんでだよ」
"【悲報】津川ユウジ バケモノ説浮上"
「なんでだよ!!」
コメント欄にツッコミを入れつつ、先へ進む。
コメント欄の様子を見てみると、別の裏口から姫島とキララが入っていったそうだ。
「リスナー頼む。ニンジャ・ゴブリンが潜んでるかもって教えておいてくれ。……字面からしてなんかアレだけど、でも本当のことだからな。忍者に襲われるから周囲に警戒してくれってさ」
"了解!"
"あのふたりなら忍者が出ても大丈夫でしょ"
"そうか、ゴブリンも忍者になる時代か~"
"舞子ゴブリンとかいそう"
"いてたまるかw"
進むこと数分、あの湖へと通じる門の前へとたどり着いた。
おそろしく濃い瘴気と殺気がそこから立ち込めているのを感じる。
ユウジはゆっくりと門を開けた。
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