第20話 配信続行だ!

 配信を一旦止めて、姫島とキララは廃寺のある広場にて身を隠す。

 

「ふぅ、ここまでくればもう大丈夫ね。キララ、ケガはない?」


「…………」


「キララ? どこか具合でも悪いの?」


「ううん、大丈夫。あぁ、やっちゃった。アタシのせいだ。アタシのせいでユウジが」


「落ち着いて。ユウジ君ならきっと大丈夫。彼はそう簡単にやられるだなんて」


「なんでそんなこと言えるの!? ……ごめん。アタシが動けなかったからあんなことになったのに」


「キララ……」


 キララはその場に座り込む。


「アタシさ。ユウジと一緒にユニット組めて嬉しかったの。もちろん姫島さんともだよ。それで、すっごく浮かれてたんだ」


「ゆっくり話してみて」


「うん、あのね。この際だから白状するけどさ。アタシ、ユウジのファンなんだよね。それも昔から」


「え?」


「ユウジがアタシたちと関わる前から。ユウジの配信をずっと見ててさ。それで彼みたいにカッコよくなりたいって思って配信始めたら、大バズり。いつの間にか彼を抜いちゃて。逆に遠くなっちゃって。でもこないだ一緒にコラボして、こうしてユニット組んで、……すごくうれしかったんだ」


「そう、だったのね」


「でも、アタシがビビっちゃったからユウジは、……ユウジは! 助けにいかないと!」


「待ちなさい! 状況がわからない今動いては危険よ!」


「な、なんでよ。なんで姫島さんは平気なの!? 心配じゃないの!?」


「すごく心配してる。でも、私は彼を信じてる。ユウジ君の強さは知ってるでしょ? 彼は、負けたりなんかしない」


「姫島、さん……」


「式神を飛ばすわ。これで大橋の様子を見てみましょう」


 紙でできた鳥が空を舞う。

 紅葉とくすんだ朱塗りの世界を飛びながら、目的の大橋へと向かった。



「オラこれで、最後ぉおお!!」


『グガァアアア!』


「うぉおおおおおおおおお!!! 勝ったぞぉぉぉおおおお!!」


 "勝ちやがった"


 "え、すご……"


 "普通逆転できるのかこういうの"


 "すごいけど、引くわ"


 ”あぁ、ちょっと引く”


 "うん、引くわ"


「なんでだよっ! 勝ったんだからいいじゃねえかオイ!」


 大橋に静けさが戻る。

 敵の気配がしないあたり、また先へは進めそうだが……。


「姫島さんとキララ、逃げれたかな。連絡が取れればいいんだが」


(すごい、ユウジ本当に倒したんだ)


(ね、言ったとおりでしょ)


(……こんなときでも、アタシたちのこと心配してる、のかな)


(そうね。もう大丈夫みたいだし、合流しましょう)


(う、うん)


 しかしそのとき。


 ────バキッ!


「へ?」


(あ)


(うそ!?)


 先ほどの戦闘で傷んだ部位が限界を迎えて崩れ落ちた。


(く、ラッシュ・フォームに……ダメだ間に合わない!)


 ユウジはそのまま下の川へと落ちていってしまった。

 式神の映像はここで途切れる。


「ちょっと姫島さん! ユウジが! ユウジが!」


「落ち着きなさい! とにかく私たちも現場へ向かうの!」


 大橋につくとそれからもまた崩れたのか、奥へ続く道が絶たれてしまっていた。

 

「そんな……」


「…………」


「どうしよう。姫島さん」


「彼の安否を知る術はある」


「どんな?」


「キララ、スマホでダンチューブを開いて!」


「ダンチューブ、そっか!」


 ダンチューブで津川ユウジの配信を見てみる。

 変身を解いていた彼が川辺に上がってD・アイに向かって話しかけていた。


『くっそ~締まらねえ。ふたりを待たせてんのにダサいったらありゃしねえ』


「見て、ユウジ生きてるよ!」


「待って!」


『リスナーの皆に頼みがある。ふたりには俺が無事だってことをコメントで伝えてほしいんだ。俺のスマホ壊れちまった。あぁ、買い替えなきゃ……』


 "わかった!"


 "任せろ!"


 "あ、ダメだ。ふたりとも配信切ってる"


『配信切ってる? マジか。もしかして、ちゃんと逃げ切れたか?』


 姫島の横でキララが一瞬肩を震わせた。


『……よかった。無事なんだな?』


 "廃寺のところで一旦切るって言ってまだ配信再開されてない"


 "隠れてるのか、それとも置いて逃げたか……"


『俺はどっちでもかまわない。……もとはと言えば、俺が不用意に相手を挑発したのが悪いんだ。キララに怖い思いさせちまった。姫島さんにも迷惑かけちまった。俺はこのまま進むよ。ダンジョンを攻略してみせるぜ! だから、皆もふたりを責めないでほしい。あれは俺の失敗だ』


(ユウジ……)


「ユウジ君、もう……」


 コメント欄ではユウジを応援し、彼女らを心配する声もあり、彼の言うとおりキララたちを責めるコメントは一切ない。


「姫島さん!」


「うん、彼と合流しましょう! 配信、いけるかしら?」


「ばっちりだよ!」


 ふたりも動き始め、配信が再開されたという報告を聞いて、ユウジはほっとした顔を浮かべるのであった。


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