第19話 俺の作戦だった、けど!

 空気をえぐりながら飛んできた3本の矢。

 しかしヒュンという音ではない。


 大砲が撃ち込まれたような轟音をまとわせながら、回避した3人の足元に突き刺さる。


「ぬおお!? なんて衝撃波だ。矢が出していい威力じゃねえぞ」


「次、来るわ! 皆私のうしろに!」


 矢継ぎ早に発射されるそれを姫島は方陣による障壁で防ぐ。

 当たるたびに腕がしびれるのか、ずっと顔をしかめていた。


「あの屋敷から撃ってんのか?」


「それだけじゃない。おそらく向こう側の崖からも狙い撃ちされてるわ」


「えー! どういう視力してんの!? スナイパーライフルとかそういうレベルじゃん!」


「……D・アイ。敵の姿が見えないけど、どんなのか検索はできる?」


『確認します。……検索完了。このモミジ谷に生息する"ウラグモ衆"であると考えられます』


「ウラグモ衆? なんだそれ?」


『赤い大鎧を身にまとう魔物で上はゾンビ、下は蜘蛛という異形の存在です。魔法の類は使えませんが強弓こわゆみ、太刀、槍を駆使する豪傑集団であり、その実力と咆哮はほかの魔物も恐れを抱くほどで、最後の1体となったとしてもけして油断はなさらぬように』


「今までの奴とは違うってわけか!」


「こんな魔物いたっけ? 前動画で見たときは……」


「言ってる場合じゃないわ! あの距離から、しかもこの威力で撃たれてる以上進むのは難しい」


「キララの槍でなんとかならないか?」


「弓を射るほうが多分早いかも。それにやるにしても正確に狙えるかどうかね」


「くそ、崖を挟んでの攻撃だからな……」


 ラッシュ・フォームで一気に駆け抜けるというのもありだろうが、いかんせんまだまだ使いこなせていない。

 

「私も妖術を使えればいいんだけど、さすがに防御態勢のままだと……」


「だったら俺が行きます。ようは矢をやめさせりゃいいんでしょ?」


「え、ええ、そうね。そんな簡単にいくとは思えないケド」


「うし、じゃあ行って来ます。キララ、槍一本貸してくれ」


「う、うん……でもなにするの?」


 ユウジはトンファーと槍を両手に前へ出た。

 パワーにはパワーを。威力も速度もケタ違いなそれを弾きながら、大橋の前へと出る。


「おーーーーーい! その程度かコノヤロウ!!」


「え、ユウジ!?」


「な、なにをする気なの?」


「遠くからたらふくブチかましやがって! それしかできねえのか!! 強いんなら正々堂々かかってきやがれ!!」


 この言葉に攻撃がやんだ。

 不気味な空気が流れ、あたりは緊張の沈黙に包まれる。


 しばらくして向こう側の木々がゆらめき始めた。

 ────ウラグモ衆が動き始めた。


 フー、フー!

 グルルルルルル……!

 ヴーーーー……!


「す、すげぇ数だ。映画のワンシーンかよおい」


"あっ……"


"なんかヤバくね?"


"武士を馬鹿にしてはいけない"


"うわぁ……なんか圧巻"



『ヴワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 先頭に立つ大将が吠えると、続いて何百という数が吠えた。

 彼らの図体は大きく、それこそ遠目に騎馬武者と見まごうほど。


 ユウジたちはもちろん、画面越しのリスナーもまたその勢いにびくつく。


 その手に握る太刀や槍は人間が使うものよりひと回り大きいため、槍にいたっては柄の部分などもはや丸太だ。

 そしてせきを切ったように軍勢がユウジたちに向けて突進していく。


「やっぱり挑発にのってきやがったな。こいよ。大橋とはいえ密集しちまったら狙い撃ちしやすいだろ。……姫島さん、キララ! 一斉に攻撃だ!!」


「え、えぇ。すぐにやるわ!」


 姫島の新しい妖術、桜吹雪をまとった華麗な風刃を飛ばした。

 突進の中で赤と黄色の紅葉が舞い上がる中に、彼女の術が入り込み、断末魔と血しぶきが入り混じる。


"うおおおお!"


"作戦成功!"


”術めっちゃ綺麗”


"場所が場所なだけに映える"


"このまま一気に削りきれるか!?"


 しかし、ひとつの異常に気がつく。


"キララー!"


"キララ、チャンス! 動いて!"


"キララどうしたの!?"


「────」


 姫島が勇気を奮い起こす中、キララは怖気づき動けなくなってしまっていた。

 ウラグモ衆大将の咆哮で戦意を失い、真っ青な顔で立ちすくんでしまう。


「お、おい! どうしたキララ! お前の槍が必要だ! 槍を撃つんだ」


「あ、あ、……あ」

  

(く、あれだけの迫力だったものね。上位ダイバーとは言っても、心を強くもたないとあれはきついかもしれない。キララ、アナタは……)

 

「あぁー! くそ、もうそこまで来やがる。こうなったら……オラァ!! ここを通りたかったら、俺を倒していけやぁああああ!!」


 姫島の妖術だけでは完全にはさばききれず、十数が今なお向かってくる。

 トンファーと槍を器用に振り回しながらウラグモ衆に立ちはだかった。

 

「姫島さん! キララを連れて退いてください! 俺が殿しんがりをつとめます!」


「で、でも……!」


「いいから早く! さぁあ、来いやぁああああああああああ!!」


 対多数の乱戦が大橋にて勃発する。

 ブレイク・フォームに負けず劣らずのパワーを魅せるウラグモ衆に果敢に挑むユウジのおかげで、進行が止まった。


「キララ、さぁ早く!」


「あ、あ、姫島……さん! ユ、ユウジ!」


「行けぇぇぇえええええ!!」


 姫島に連れられるキララの伸ばす手の先に見えるのは、果敢に戦うユウジの背中だった。

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