第22話 ド派手な花火だ!
門の奥はこれまでとは一線を画す空気が漂っていた。
正月の雅楽めいた音楽と複数名からなるお経のようなものがうっすら響いている。
高舞台では誰かが舞を踊っているのか、人影らしいものも見えた。
まるでここだけがアウター・ダンジョンのような異界めいた光景なのだ。
「ここがゴールか? そうっぽいな。たしかに、いる」
そう確信した直後、ゴボゴボと波たたせながら五重塔のような建物が湖の中心よりせりあがってくる。
水草や腐食で傷んだ塔の扉が開くと、中からその『主』は現れた。
『ギギギギギ……』
その姿はまさしく巨大な男の人魚。
白蛇のような肌の上に、いたんでこそいるがウラグモ衆のような赤い鎧をまとい、下半身は魚というより龍に近い。
手には長巻を持ち、ユウジを見るや白い吐息を吐き散らしながら迫ってきた。
『"
「へ、上等だ。攻撃だけならどうってことはねえ! 俺の硬さなめんなよぉ。さぁ来いよ!!」
すさまじい推進力からなる巨大な刃をユウジはトンファーで受け止める。
(やろっ、なんて重さだ!)
叩き付けと斬り上げ、左右の薙ぎからなる連続斬りにも耐えながら攻撃の機会をうかがった。
うねうねとした動きで思うように狙いが定まらず、長期戦になるかと思われたが……。
「おまたせ~!! でりゃああ!!」
「援護するわ。見てて!」
遅れてやってきたふたりがやってきた。
妖術と槍が飛び出して芦辺の横面に直撃していく。
「キララ! もう大丈夫なのか!」
「うん! その、ごめんなさい!! アタシのせいで……」
「謝ることねえって! あれは俺が無茶やらかしたからだ。今は目の前の敵に集中するぞ!」
「ユウジ……、うん、わかった!」
「じゃあ改めて、アルデバラン行くわよ!」
「おう! ド派手にブッ飛ばしてやるぜ!」
「ミスは絶対、取り返す!!」
中距離・遠距離を得意とする姫島とキララが合流することで、戦況は一気に変わった。
特にキララのやる気は顕著なもので、前へ出るユウジの援護に精を出している。
「ユウジ! 相手の動きをよく見て! くねくねしてても技は人間と同じだよ!」
「おう、わかってるって!」
「でも、だんだんと距離を置いてきたわねえ。もしかしたら遠距離攻撃をしかけてくるかもしれない」
「だったらそうなる前にブッ飛ばすしかねえな」
「どうやって?」
「ラッシュ・フォームで一気に距離を詰める。たぶん水の上走れるだろうからな」
「え、できるの!?」
「大丈夫だ! 俺を信じろ!」
「ユウジ君、あの魔物の装甲を突き破れるの?」
「そうっすね。ド派手にぶちかましますけど、ちょっと力借りてもいいっすか? もちろん、キララもな!」
「オッケー、なんでも協力するよ!」
3人は作戦をたてたのち、行動にうつす。
「でりゃあああああ!!」
「ハァアアアア!」
ラッシュ・フォームで湖面を走りながらヒットアンドアウェイを繰り返し、キララが槍を飛ばすことで、鎧にヒビをいれていく。
姫島はその間、妖術の威力を高めるため術式と方陣を幾重にも練っていた。
「姫島さんまだ!?」
「今、できたわ!」
「いよっしゃ! タイミングは任せた!!」
妖術による拘束術式。
湖面に広がるそれによって宙に勢いよく浮き上がらされた。
「いっくよ~キララスペシャル!! ……『イルルヤン・カッシュ』!!」
キララ必殺の螺旋状に尖った光の槍が飛ぶ。
「いよっしゃああああ!! いくぜぇぇええええ!!」
湖を走り速度を極限まであげていたユウジはキララの技と同時に飛び上がり、槍にあわせるように飛翔蹴りをかます。
「術式・展開! 開け、
かの天魔を磔にでもするように開かれ、槍と蹴りが炸裂した。
「いっけぇぇぇえええ!!」
『ギギ!? ギギギギギィィイイイイ!!』
ユウジの蹴りが胴体を貫き、槍と曼陀羅が爆散する。
アルデバラン複合技『六尺玉スマッシュ』が湖面に映る幻の夜に、満天の花を開かせた。
『……ギ、ギ』
光の粒とともに、芦辺天魔波旬は露と消えた。
「うおっしゃあああああ!! って、うぉおおおお! 落ちるぅうう!!」
「ユウジーー!?」
「あ、あー……落ちちゃった……」
(くそ、水に落ちるとか最後しまらねぇ……ん?)
遅れてポチャンとユウジの隣になにか落ちてくる。
(なんだこれ? 宝玉? アイツが持ってたのか? ……あ、俺のアーティファクトが反応してる。これは……)
ボス撃破とその演出の派手さで、コメント欄の大盛り上がりなのはもちろん、各チャンネルへのスパチャの嵐がやまない。
ユニット・アルデバランの初配信は結果大盛況となった。
「あーあ、好き放題やってくれちゃって……」
一方、風背山市の象徴である『エルダータワー』の最上階。
本来なら関係者以外は誰も入れないはずの外のほうで、ひとりの少年が配信を見ていた。
「アルデバラン、津川ユウジ……あんまり関わりたくない類だが、今後の動き次第じゃ鉢合わせもありうるかもな。……あ、メールだ。え、今から仕事? 俺学園に用事あるんだけど。こっちが最優先? マジかよオイ」
風背山学園の制服を着た少年は鳥のように、エルダータワーから飛び立った。
「ブラックボックスがまた現れやがった。今月で4件目か」
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