第16話 ラッシュ・フォーム大活躍!

 赤を基調とした軽装甲服で身軽になったユウジはボクシングのようにタップを踏み始めた。


「……さぁ、トップスピードでぶちかますぜ!」


 次の瞬間、空を切る音とともにユウジの姿が消え、続いてカンディードの姿が消えた。

 床や壁を蹴る音と互いの攻撃がぶつかる音が、破裂音のように仄暗い空間に響き渡る。


「な、なんだこりゃ……っ!」


「全然見えない。これ、人間の動き?」


「これ建物大丈夫かな」


「ウゥリャァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


「グォォオオオオオオオオ!!」


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!


「ほぉらどうした!」


「グウ!」


「こっちこっち!」


「ギィイイイ!」


「あ痛って滑った」


「ガォォォオオオオ!!」


「はい残念ッ!!」


「グっ!」


 理論上において無限の加速を可能とする新たなる力『ラッシュ・フォーム』。

 カンディードが距離を取ろうとしても超加速で接近され、凄まじいラッシュを叩き込まれる。


 妖精キュネが回り込もうとしてもすぐに回避され狙いが定まらない。

 次第にカンディードの動きが鈍くなっていった。


 ユウジは肩を軽くまわしてランナーのように低くかがむ。


「さぁ、覚悟はいいか?」


「グルルルル」


『……あぁッ!』


 カンディードが動くより先に、蜃気楼のような揺らめきを残して敵を貫いた。


 刹那のうちにしてパンチを急所に5発打ち込まれ、カンディードは灰となって崩れ落ちていく。

 灰が舞う中、妖精キュネが怒りに満ちた顔で、魔法攻撃を放った。


「ウルゥウァアアアアア!!」


 もはや所作すら見えぬ上段回し蹴り。

 高密度の威力を誇る魔法が魔素レベルで砕かれたことで完全に戦意喪失し、どこかへ飛んでいってしまった。


「ふぅ、こんなもんか」


「す、すごい。軽々やっちゃった……」


「お、おい! 追わなくていいのかよ!」


「別に。もしまた来るようならぶっ飛ばすだけだ」


「で、でもよぉ」


「俺はもう戻るぜ。俺には俺の配信があるからな、じゃ!」


 颯爽さっそうと去っていく彼の姿に、紅蓮アッパーは、ぽーっとした表情で見送っていた。


「ヤベェ、配信の主旨ズレちまったな。ホラー回だったのに」


 "あれはあれでオッケーだと思う"


 "新しいフォームかっこよかったよ!"


 "人助け配信もまた乙なもの"


 "神回でいいと思う"


 "新しいフォームで人助けをする。久々にイイモノを拝ませてもらった"


 "生配信はこういうことがあるからやめられない"


「なんて好意的なコメントなんだ。俺のリスナー優しい人ばっかりでマジ助かる」


 配信を再開してまた奥へ進む。

 さっきの妖精はいないようだが、ところどころに魔物がちらばっており、さまざまな妨害を受けた。


「さすがに数が多くなってきたな。今日はここまでにしよう」


 "うい~"


 "りょうか~い"


 "神回乙!"


 "また来ればいい"


 "次も楽しみにしてるよ!"


 配信を終えて、ユウジは帰路へとつく。

 あとから確認すると、今までにないほどに、大量のスパチャやアイテムが投げ込まれていたことに気付き、密かなガッツポーズをとった。

 

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