第15話 新しいフォームだ!
本日訪れたのは風背山市の北東にあるダンジョン『茨の
巨大な廃工場じみた場所にうっそうと茂みわたる、"うごめく茨"がより不気味さを演出している。
「うし、始めるか。────おっす皆! 津川ユウジのダンジョン配信スタートだ! 今回はちょっとレベルを上げて、このダンジョンまでやってきた。事前情報はある程度集めたけど、実際に踏み入るのはマジで初めてだ。……ホラーだなぁ」
"お、始まった!"
"がんばれー"
"ここ行ったことあるけど怖すぎて帰った"
"またド派手なバトル期待する"
「お、行ったことあるリスナーがいるな。同じダイバーかな? ……そのとおり、今回はちょぉっとホラーな場所にチャレンジだ!」
とどのつまりホラー回。
たとえ幽霊系の魔物が現れても、アーティファクトなら干渉できるとあったので、自分も大丈夫だろうと踏み込んできたのだ。
なによりユウジがこういうホラーが好きなのである。
よく別のダイバーのホラー回を見ては、いつかはやってみたいと思っていた。
ダンジョンの入り口は地下へ通ずる階段。
ユウジはD・アイの明かりを頼りに奥へと進んでいく。
「ダンジョンだってのにここまでずっと機械やら配電盤やらがある。うおお、茨がこんなとこまで入り込んでんぞ。まさしく出そうな感じだ。……あれ?」
足元を照らすといくつもの足跡が見られた。
「先着がいたらしいな」
"数多いな。コラボあったっけ?"
"少なくともホラー回やってるダイバーはいない"
"今わかった。『紅蓮アッパー』っていう連中が配信やってる"
"お、これはダンジョンのお宝競争かな?"
「ほー、チームダイバーか。たしかにお宝とか強い魔物先に倒されるのを指くわえてみてるわけにはいかないな。早い目にいかねえと!」
ホラー回というわりにはウキウキで進む彼に、ホラーが苦手なリスナーもわりと安心してみていた。
道中、茨がヒト型になったおぞましい魔物がいたが、ユウジが別の方向へクルッと行ってしまったためお互い気が付かないまま終わるという珍ハプニングが起こる。
コメント欄による総ツッコミがあったことはもはや言うまでもない。
「え? いた? マジで? ……いないじゃん。驚かすなよ~」
"いやいやいやいやいやいや"
”おいおいマジか”
"強ぇw"
"いやうしろにいたんだけど……いや、もういいわw"
「マジかいたのか。くそ~見てみたかったな」
そのとき。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!!」
「────っ、悲鳴!? 向こうからだ!」
突然響き渡る複数の悲鳴と喧騒。
肌がひりつく感覚と気配をたよりに、現場へと駆けていく。
「グォオオオオオオオオオ!!」
『キャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』
「うわぁあ、くるなぁあ!」
「なんでこんなにも追いかけてくるのよぉお!」
「くそ! こんなことなら……っ!!」
(アイツらが紅蓮アッパーの? そしてあれが!)
考えるよりも先に身体が動いた。
機械と機械の間を高速で飛び移りながら勢いをつけ、壁をキックしてからの蹴り落としを放つ。
変身前からでも見せる身体能力は、紅蓮アッパーとコメント欄の度肝を抜いた。
「グギャアア!!」
ずしんと音を立て倒れる魔物を前に、ユウジは彼らの無事を確認した。
「アンタら無事か?」
「え、えぇ……」
「もしかして、津川ユウジ!?」
「お、知ってんのか?」
「知ってるもなにも……アウター・ダンジョンの配信でめっちゃ活躍してたダイバーだろ!? なんでこんなところに」
「俺も配信だよ」
紅蓮アッパー。
6人で構成されるチームでダンジョン配信を行っているらしいが、いかんせん登録者数が少ないためユウジもまた知らない。
今回の配信で一発当てようと無茶をしたらしいのだが……。
「……っと、奴が起きた。D・アイ」
『"カンディード"。ワーウルフのように二足直立する狼系の魔物ではありますが、人間の少女のような妖精"キュネ"を使役することで抜群のコンビネーションを可能としています。凄まじい身体能力と鋭い爪からなる攻撃と、妖精の魔法攻撃には注意してください』
「了解! うし、アンタらは下がっててくれ。ここは俺が引き受ける」
「え、でも……」
「いいから。ふぅ、【変 身】!!」
ブレイク・フォームに変身すると一気にカンディードへと駆けていく。
飛び蹴りを放った直後、カンディードは一瞬にして姿を消した。
「なに!?」
「き、気をつけろ! アイツ図体のわりに恐ろしく速い!」
「妖精も高速で攻撃してくるからマジでやべえんだ! 今までの魔物とは違う!」
「く、そういうことか。ぬおおおお!!」
回り込むような軌道で爪と魔法が容赦なくぶつけられる。
装甲でそこまでダメージは受けていないがあまりのスピードにこちらの攻撃が当たらない。
(くそ、ブレイク・フォームじゃ遅すぎて攻撃が当たらねえ! ヒット&アウェイ使われると厄介だ)
ユウジは決心し、左腕にアーティファクト顕現させる。
「これはまだコントロールできてないから使うのずっと渋ってたけど、そんなこと言ってる場合じゃなくなった。さぁ、行くぜ!!」
宝玉が光るとブレイク・フォームの装甲がどんどんパージされていき、光の粒子となって霧散していく。
同時にフルフェイスも少し変形し、鳥頭をかたどるように鋭利なものへ変化した。
"ウソ!? もうひとつのフォームあんの!?"
"なんか変形した!"
"え、防御捨てた?"
"カッコイイ"
コメント欄も盛り上がる中、ユウジは新たなフォームで戦闘態勢に入る。
「さぁ、ド派手に飛ばすぜ!! ついて来いよな!」
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