第3話 ノー配信でも大活躍だ!

 触手のように伸びてくる腕を回避しながら放たれるドロップキック。


「んだぁらああああ!!」


 ドッゴォオオォオオオオオオオッ!!


『グギィイイイ!?』


 数十トン級の威力を持つ蹴りで大きくバランスを崩しボールのように転がるハギトリア。

 続く攻撃に用いるは1対の鋼鉄トンファー。


「まだまだ行くぜオイ!! でりゃあああああ!!」


 トンファーを器用に旋回させ高速連打を叩きこむと、バキバキと音を立てハギトリアの肉体が弾け飛んでいった。

 途中無数の腕にからまれても自慢のパワーで容赦なく引き千切る。


『グギ、ギギギギギ!』


 剝ぎ取ろうにも装甲が堅牢すぎてビクともしない。

 次第にハギトリアの威勢が弱まってきた。


「ん、んぅ…………」


 響き渡る轟音に目を覚ます姫島。

 見知らぬ誰か、暗闇を貫く輝きを宿した背に彼女は目を見張る。


 「コイツでフィニッシュだ!! ……────ハァァァァアアアアアアアアアアア……ッ!!」


 カナタの両手に収束する光の渦。

 森羅万象に宿る創造と破壊のエネルギーを巨大なハンマーの形へと固定。


 『ガラティーン・ハンマー』を手にユウジは前へ躍り出た。

 

「さぁ、ド派手にブッ飛びやがれぇぇえええええ!!」


『グァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 横回転しながら振るわれるハンマーに一切の容赦はなく。

 抵抗むなしくハギトリアの横っ面にぶち当たった。


 ────ズガァァァァァァアアアアアアンッ!!


 ハンマーが役割を終えて霧散したと同時に、踵を返した彼の背後で悪しき魔物は爆発四散する。


 戦いが終わると同時にユウジは変身を解き、ひと息ついた。


「……これだけやっても、配信伸びねえのなんでだろ? おっと、そんなこと言ってる場合じゃない! 姫島さん!」


 振り返ると彼女は岩壁を背に座るようにしてユウジのほうを見ていた。

 彼の上着と自分の衣服で自分を覆い包むように隠しながら、ポカンとしている。


「あ゛! 待って! えと、大丈夫っす! なんも見てないっす!」


「え、え?」


「えっと、D・アイはありますけど撮影とかしてないんで! なんなら確認してもらったらいいんで。はい、これが俺のD・アイです!」


 そういって勢いよくうしろを向いて彼女の手元のほうにD・アイを飛ばす。

 たしかに撮影はされていない。

 

「あの、君が助けてくれたの?」


「は、はい、そうっす。その、今日の配信見てて、最後に変なの映りこんだのわかって……それでいても立ってもいられなくなってっていうか。ヴィリストン姫島、さんですよね?」


「え、えぇ。その……」


 彼女は困惑している。

 苦々しい表情をしていることは雰囲気で察知できた。


「誰にも言いません! お、俺、津川ユウジって言います! 一応アナタと同じダイバーなんですけど!」


「ツガワ、ユウジ?」


「あ~聞いたことないっすよね。底辺だもんなぁ俺。…………あ、そんなことより、その、服ってもう着られてます?」 


「あ、ごめんなさい。ちょっと待ってて!」


「うっす!」


 いそいそと服を着る姫島。

 

「もういいわよ」


「うっす! では、失礼します」


 ユウジはゆっくりと彼女と向かい合う。

 いちいち「じゃあ目を開けますね」と確認をとる徹底ぶり。


 目の前に映る推しの姿。

 しかしその不安が張り付いたような顔に胸が張り裂けそうになってしまう。


 しばらくの沈黙のあと、ユウジは口を開いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る