第4話 情けは人の為ならず!
「あの、お怪我はありませんか?」
「ううん、大丈夫。アイテムとか使えばなんとかなるわ。だけど……はぁ、まさか私が不覚をとるだなんて」
「あ、えっと、姫島さん!」
「あ、うん、なに?」
「俺、アナタの今日の配信見てて、それでアナタのうしろに妙な影が見えて、その」
「ユウジ、君?」
「実は俺! アナタに憧れてダイバーになったんです。だから、なんていうか。このまま引退とか、その……」
ユウジはなにを言えばいいかわからなかった。
気の利いたなぐさめや励ましの言葉が急に出てくるほど人生は成熟していない。
それがくやしかった。
だが正直なくらいにもどかしさと苦しさにさいなまれているユウジの姿を見て、姫島はクスッと笑う。
「大丈夫。やめたりなんかしないから」
「ホントにホントっすか? さっきも言いましたけど、俺今日のこと絶対に誰にも言ったりなんかしません! スマホにだって撮ってないし。あ、なんならスマホの確認を!」
「いいって。君を信じる」
「そうっすか」
「ねえ、さっきの戦いなんだけど、君すごい力を使ってたよね。あれってもしかしてアーティファクト?」
「はい、俺のは魔剣とか魔槍とかそういうんじゃないっすけど」
「……変身できるタイプのアーティファクトっていうのは珍しくない?」
「あー、珍しいんですかねやっぱ。でも鎧とか
苦笑いするユウジに姫島は絶句する。
ヘラヘラとしているが、単純な火力なら上位ダイバーにも匹敵するのはないか。
ひと昔前なら腕っぷしの強さだけでもよかったかもしれないが、今は演出性やトークの軽快さなどのエンタメが前へ押し出される傾向にある。
(演出とか小細工は苦手で、まっすぐなタイプか……)
「あの、どうかしました?」
「いえ、別に。今日は本当にありがとうね。またね、津川ユウジ君」
「は、はい! おつかれっしたー!」
深々と礼をして彼女を見送る。
姫島のうしろ姿にうっとりとするユウジの顔面はゆるみきっていた。
推しのピンチを助けられた。
推しに名前を呼ばれた。
推しに感謝された。
至福の余韻にひたりながら、ユウジはダンジョンを出る。
帰りのコンビニでアイスを買い、今回の自分の働きを自分で称えた。
戦いで火照った身体の奥の奥に、ひんやりとした冷たさをブチ込んでいくこの感覚がたまらなく好きだ。
「うし、次の配信も頑張るか!!」
などと張り切ったものの……。
「…………んで、結局今日も過疎っちまって。あーあ」
あれから数日。
ほかのダイバーの配信を見て勉強はしているものの、それをものにできているかといえばそうではない。
むしろなにがどうなのかチンプンカンプンといった感じで、自分の要領の悪さにうんざりする。
ダンジョン配信投稿サイト、通称【ダンチューブ】にある自分のチャンネルを確認しながらうんうんうなる日々が続いていた。
「ちくしょー。まるで鍵かけられたみてえに再生数も登録者数も上がんね。俺のチャンネルだけ呪われてんじゃねえのかもしかして。ん゛!? もしかして俺に活躍されたくないっていう誰かの妨害工作が!? ……んなわけないか」
「あら、もしかしてユウジ君?」
「へ、その声は!」
「君もここで配信やってたのね」
「あはは、はい! ってことは、姫島さんはかなり奥のほうで?」
「うん、さっき終わったところ。なぁんだ。タイミング悪かったわね。君にも見ててほしかったかなぁ」
「あ、大丈夫っす! アーカイブ追いますんで!」
「ふふふ、ありがと。実はねユウジ君。私、君を探してたの」
「え? 俺を?」
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