第11話 会議

 王城の一室。

 大きなが部屋の中心に置かれており、その周りにはいくつかの座席が用意されていた。

 鎧を着た騎士団長や貴族が何人も座っており、それぞれ思い思いの表情を見せる。

 ルナは副団長であるハッツと共にアルテイシアが座る位置から少し離れた壁際に立っている。

 周りを見ると、ルナやハッツのように鎧を着た人間の後ろに立っている姿の者が他にもいた。

 彼らも自分たちと同じように各団長に連れてこられたのだろうと推測した。

 誰もが沈黙を貫く中、一際大きい扉が開く。

 そこから入ってきたのは豪華な服装を身に纏い、かなり歳を取った男性。

 その場にいた者はすぐさま立ち上がり、敬礼をした。

 ルナは少し遅れてそれを真似る。


「楽にしてくれ」


 男性は片手を上げてその場を制する。

 そして部屋の中にある一番大きな椅子に着席した。

 それを見て騎士団長たちも席に着く。


「まず此度の事態についての報告を聞こう」


 男性、ドラグニア国王の言葉に顔に傷がある男性が頷き、視線を痩せぎすの男に目を向ける。

 痩せぎすの男は立ち上がり、へらへらと笑いながら口を開いた。


「えー、我が第三騎士団の報告ですがぁ。

 以前発生した巨人と酷似したモンスターが暴れたのが4か所。

 その場にいた騎士が対処しましたが、被害は軽視できるものではありません。

 幸いと言うべきか民の死者は出ておらず、重軽傷者は教会や第四騎士団の手を借りて治療を行っております」

「ありがとうベリブ」

「へい」


 痩せぎすの男、第三騎士団ベリブはへらへらと笑みのまま座る。


「前回現れた巨人についての報告は余も目に通している。

 原因は最近この国を騒がしている黒教団と呼んでいる者たちの仕業であるだろうことはみなも察しているだろう。

 アルテイシア、進展はどうなっている?」

「……申し訳ありません陛下。

 薬物の正体は掴めましたが、依然彼らの情報は掴めておりません」

「薬物の正体とは?」

「使用した場合の効果は以前ご承知だとは思いますが、この薬物の材料には人が使用されているとミーリン指南役からの報告がありました」


 淡々と告げるアルテイシアの発言に何人か反応を見せる。


「それは由々しき事態」

「押収した薬を考えるとかなりの被害が出ていることになるな」

「でもそれだけの人間をどうやって?」

「俺がガキの時代なら奴隷やれんこともないだろうが」

「他国から購入したという場合もあるだろう。

 そもそも黒教団自体が他国の組織やもしれぬ。

 どこかから攫ってきたものたちを使っても不思議ではあるまい」

「だが、我が貴族に繋がりを持っていたという話もある。

 領民を使ってという可能性も……」


 騒がしくなり始めたころに、ドラグニア国王が片手を上げた。

 それを見て部屋は静かになり、ドラグニア国王に視線が集まる。


「なるほど。

 それが事実ならなおのこと放置できることではない。

 俗物たちの活動は活発になっているのは今回から明白。

 事態の収拾、黒教団の壊滅を急がせなければならない」

「私も同意見です」


 ドラグニア国王の意見に、顔に傷のある男は同意した。

 彼に視線が移る。


「今回現れた巨人の脅威は対応した我が第一騎士団の一員から報告を受けています。

 たまたま一撃に重きを置いた我が団の一員だからよかったものの、あの巨人が再び現れたとなれば対応が難しくなってしまいます。

 黒教団の正体がまだ見えない。

 となればいくら巨人を倒せてもまた同じようなことが繰り返されるだけでしょう。

 各騎士団を協力し、早期解決を図るべきだと考えます」


 第一騎士団長である男にルナは「まぁそうだよね」と同意した。

 しかし同時にそんなことができるのだろうか?とも。

 第一騎士団の意見をきっかけに会議は白熱を極める。

 しちめんどうくさい。

 そう考えているとふとドラグニア国王と目が合った。


(やべっ)


 直ぐに視線を逸らしたが、ドラグニア国王はルナから視線を外さない。


「君はどう思う?ルナ・スターズ」


 ドラグニア国王が口を開く。

 騒がしかった会議の場は冷え、ルナに集約された。

 なんで名前知ってるんだと問い返したくなるが、この状況でそうはいかないだろう。

 隣のハッツを見るとすごい汗を流しており、目の前から横目だけで見てくるアルテイシアはバレない程度に薄っすらと笑って頷いた。

 正直このままだんまりをきめ込みたいが、このまま聞き流すわけにはいかないだろう。

 仕方ないと思い、とルナは己の考えを述べる。


「第一騎士団殿のご意見にはおおむね同意しますが、同時にそれは難しいと愚考します」

「ほう?それはなぜだ?」

「ある領地を治めていた貴族は黒教団と繋がりを持っていました。

 つまりはもう既に例の黒教団とやらはこの国を徐々に侵食していると考えてもおかしくはないでしょう。

 この場にいる全員は勿論そうでないと思いますが、だとしても繋がりを持った貴族はどれだけいるのかがわかりません。

 逐一虱潰しらみつぶしに探したところで時間がかかるだけです」


 早期解決手段があるとしたら強く繋がっている貴族をピンポイントかつ芋づる式に捕まえることだろう。

 仮にそれができたとしても黒教団を壊滅させるには難しいだろうが、少なくともこの国の膿は切除できる。


「というかアレですね。

 どうしてこうなるまでほっといたというか、国を騒がしているのわかっているならもっと早く本腰を上げるべきでしたし、なんなら最初から騎士団同士で協力させるべきだし、後手後手に回りすぎだと思うんですよね」

「ほう、つまり何が言いたい?」


 ドラグニア国王は問う。

 それに対してルナは笑顔で答えた。


「ちょっと考えが甘いですよねここの人たち。

 阿呆ですか?」


 殺気がルナの全身を覆う。

 その発生源はアルテイシアやハッツを除く騎士全員。

 ルナの発言に怒り心頭で立ち上がったはずの他の貴族が自分に向けれていないにも関わらず、震えてまた座ってしまうぐらいに濃厚なものだ。


『てめぇぶっ殺す』


 それに対し、ルナは――。


『じゃあやれよ』


 そう嘲笑った。

 殺気を出していたものたちは面を喰らう。

 ルナがこうして生きているのはアルテイシアが生かしているからだ。

 本来、領主を斬り殺したことによって罪を問われて死んでいてもおかしくはない。

 生きてこの場にいることがそもそも異常だ。

 一応、騎士としての務めは果たすし、自ら死のうとすることは今は無い。

 それはそれとして、もしこの場で死ぬのなら

 聞かれたから答えただけ、発言は正当な物だと思っている。

 文句を言われても知ったこっちゃない。

 そんな最上級鉱石オリハルコンメンタルを貫いて前を見る。


「……」


 ドラグニア国王が静かに震えていた。

 周りに座る貴族たちはきっと怒りに震えているはずの国王を見て、どのような怒号が飛ぶのか待つ。

 だがそうすることは無かった。


「ダーハッハッハッハ!!

 お主本気か!?ここでそんな不敬極まる発言をするとは!

 お主こそ最大の阿呆であろう!!」


 おおウケしていた。

 すわ何事かと貴族や騎士たちは目を丸くする。

 ルナはどうしたのあの人?という視線を隣のハッツに送る。

 ハッツは今でも倒れてしまいそうな真っ青な顔しており、次にアルテイシアを見ると、こちらは口元を抑えて今すぐ大声で笑いそうなのを堪えていた。

 なんだこいつ。

 その言葉が出なかったのは先にドラグニア国王が喋りかけてきたからだ。


「いやはや全くもってその通り。

 ぐうの音もでないな」

「陛下!!」

「よい。

 確かにこの国は平和に慣れ、優秀な者たちに甘えていた。

 自分たちの身の回りばかりに目を向け、それ以外にちゃんと目を向けていなかったのは事実」

「ですが」

「カドケウス。

 お主の言いたいことはわかる。

 ルナよ。お主もそれはわかっているだろうな」

「えぇまぁ……」

「なればこの場の不敬は不問とする。

 これ以上余を笑わせるのではないぞ。 

 運動不足で垂れてきた腹が引き締まってしまう」

「爆笑健康法ですか、新しいですね」


 アルテイシアが吹き出した。


「口が減らんなお主……。

 さて、余の戯れに付き合わせてすまない。

 話をつめていこうか」


 ☆


 会議が終わり、ルナはハッツに頭を拳でぐりぐりとされていた。


「お前お前お前ー!!」

「ハッツさんっ、痛いっ!」

「これくらいで済ませてるのを感謝しろ!

 お前のせいで僕の胃に穴が空くところだったんだぞ!!」


 ハッツはルナの隣に立っていた為にあの殺気も一緒に浴びていた。

 更に言えば会議室の空気やルナの発言一つ一つに精神的ダメージを負わされていた。

 おかげで心労はとてつもないことになっている。


「まぁまぁハッツ。

 許してやっておくれよ」

「団長も団長です!

 どうして連れてきたんですかこいつ!?」

「実地研修」

「冗談にも程がありますが!?」

「私だって陛下がルナに声をかけるとは思わなかったさ。

 ルナもあんな過激なことも言うなんて、普通許されないからな?

 笑って流してくれるのは陛下と私くらいだ」

「聞かれたから正直に答えただけなんだけど……」

「余計に答え過ぎだバカっ!」


 拳の力が強くなる。

 流石に悪かったと思い、ルナは甘んじてそれを受けていた。

 するとコツコツと近づく足音が聞こえた。


「おやまぁ、第五騎士団の皆様は仲がよろしいことで羨ましいですねぇ」

「ベリブ騎士団長。お疲れ様です」

「お疲れ様ですアルテイシア様」


 ベリブはへらへらと笑って話しかけてきた。

 その後ろには二人、彼の団員であろう騎士が並んでいる。

 一人は目つきの悪い男性。ルナの事を気に食わなそうに睨みつけていた。

 もう一人は眠そうな女性。欠伸をしながて陽気な外を眺めている。


「いかがなされました?」

「いえねぇ、これから協力するもの同士改めてご挨拶をとね。

 情報共有もかねてこれから一緒に食事でもいかがでしょう?」

「情報は共有されていると思いますが?

 それに第三騎士団であれば私たちが伝えなくても把握はできているでしょうに」


 どういうことだ?とハッツを見ると、ハッツがルナに「第三騎士団は諜報を専門とした組織なのだ」と耳打ちする。


「いやいや、流石に限界があるってもんで」

「そうですか……。

 せっかくのお話ですが、また別の機会に。

 我々もこの後の予定があるので」

「それは残念。

 ……では代わりと言っては何ですが」


 ベリブはルナの顔を見る。


「君はどう思う?」

「私?」


 まさか声をかけられると思っていなかったので驚いてしまう。

 ベリブは頷き、言葉を続けた。


「あの陛下が君に興味を持っているようだし、せっかくだから私も君の意見を聞こうと思ってね。

 何か気がかりなこととか、心当たりがあるようなことはあるかい?」

「ベリブ団長っ」

「キース。殺気立つな」


 目つきの悪い男にベリブは制止する。

 男、キースは何か言いたそうにしながら言葉を飲み込んだ。

 代わりにルナへの睨みを強くする。

 これ以上絡まれてもたまったもんじゃないと考えてさらっと答えることにした。


「コレクトル・バレトール」

「……なにっ?」


 本当に答えが返ってくると思っていなかったのか、ベリブは笑みをそのままに眉を顰める。


「なぜ、バレトール家のご子息の名前が?」

「アレが一番怪しいのかなって、勘だけど」

「勘で伯爵家を陥れるのか?」

「やめてよ色男。

 そんなに睨まれても困るわ。

 さっきもそうだけど聞かれたから答えただけよ」


 キースに対して呆れた顔を見せる。

 すると顔をリンゴのように赤くし始めるが、隣の女性にドウドウと諫められていた。


「これでよろしいです?」

「あぁ、参考になったよ。

 皆さんも時間を取らせて申し訳ない」

「いえ、力になれたら何より。

 二人共行こうか?」


 アレクシアがルナとハッツを連れて城内を進む。

 その背中をベリブは見送りながら少し考える。


「キース。

 コレクトル・バレトールについて調べろ」

「あんな戯言を信じるのですかっ?」

「何もなければそれでいい。

 陛下は一刻も早くこの事態の収拾をお望みだ。

 手がかりが少ない以上、何でも手を伸ばす。

 それとスリナ」

「ふぁい?」

「ルナ・スターズについても調べてくれ」

「気になっちゃうっすか?

 おじさんが手を出すには年齢がちょっと……ドン引きっす」

「お前、おじさんを何だと思ってるの?」

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