第9話 自由市場
「ミーリンさんでもわからないことあるんだね」
「そんな珍しいことなの?」
「そーだよ。
あの人は生きる魔法百科事典みたいなところあるし」
「フーン」
ルナとミナイは肉串を食べながら今朝あったことについて話をしていた。
勿論、薬のことについては話をしていない。
「ルナちゃんもミレイズといたなら誘えばよかったのに」
「先輩も忙しそうなのに声かけるのは気が引けたのよ」
あの後の報告義務もあるだろうし、本人もこの状況で休日を満喫できるような
そんな中で誘っても断られるだろうし、断ったことを気にされてもこちらが困る。
「……ルナちゃんって気遣いできたんだね」
「ちょくちょく思うんだけど、私のイメージどうなってんの?」
「いやー、アッハッハッハ」
露骨にはぐらかされたが、追及はせずに目の前の光景を見る。
今日は都で行われる大市と呼ばれる催しだ。
大きな広場を中心にし、たくさんの出店が出ている。
通常、商品を販売するには然るべき書類を提出し、許可を取らなければならない。
だが今日は場所代を支払えば、たとえ他所から来た流浪の者であろうと簡易的な店を構えて売買をすることができる。
どこかの誰かがいったのか
掘り出し物を見つけたり、逆に誰が買うんだかわからない物もある。
身に着けるとモンスターを引き寄せる呪具とか誰が必要とするんだ。
暗殺用ではないか?
「武具の類も置いてあるのは正直驚いたわ」
「新人や辺境で鍛冶師やってる人とかが来ることもあるんだよ。
騎士や兵士はあまり手を取らないけれど、冒険者や傭兵の人は結構集まるみたい」
「へぇ~」
騎士や兵士とは違い、冒険者や傭兵は自由業だ。
最初こそは量産品の武具や防具を身に着けているだろうが、成長するにつれて何かしらの効果が付与されている物を身に着けたり、自分に合った装備を握ることが多い。
そうなると懇意にする鍛冶師ができていく。
自分の戦い方や体格、癖を職人本人に伝えて調整する為に。
つまるところ、この市に顔を出している鍛冶師は顧客の確保に来ているということだ。
「そう聞くと私たちの騎士団は全然武器防具は統一されてないけれど、大丈夫なの?」
「んー?特に何か言われたことにないから大丈夫じゃない?」
「雑ね」
他に何かいいものが無いのか見て回る。
ふとその中に目に留まる物があった。
地面に敷かれた布の上に並べられている装飾品の一つに小さな髪飾り。
どこにでもあるようなデザインもモノだったが、ルナはそれに妙に惹かれる。
スタスタと近づき、しゃがみ込んでよく見る。
売人である男は「おや」と葉巻を吸いながらニヤリと笑った。
「お嬢ちゃん、それが気になるかい?」
「えぇ、手に取っても?」
「構わないよ」
ルナは髪飾りを手に取る。
それは光に当てると不思議に輝いていた。
最初は青く、少し傾ければ赤く。
更にまた別の方向へ傾けるとオレンジに。
見ていて飽きない。
「へぇ~おもしろいね!
店主さん、これは何でできてるんです?」
「それはダンジョンの発掘品の一つでね。
なにでできているかはさっぱり」
「ダンジョン?
じゃあ冒険者なんですか?」
「昔はな。
今はもうただのしがない流浪の民さ」
男が指をパチンと鳴らすと葉巻の火は消える。
何かしらの手品、もしくは魔法か魔道具によるものだろう。
「これいただきたいのだけれどおいくら?」
「10万エン」
「ふっかけてるにしてはちょっと適当ね」
「お嬢ちゃんたちの名前を教えてくれれば100エンにまけるよ」
「ルナちゃん帰ろう」
隣でしゃがんでいたミナイが笑みを崩さずに立ち上がる。
だがルナは髪飾りをじっと見つめていた。
「私の名前だけじゃいけない?」
「いいよ」
「えっ、ルナちゃん?」
「大丈夫よ」
この男はだらしないだけで悪人ではない。
直感ではあるがルナは目の前の男をそう感じていた。
「私はルナ・スターズ。
これでいい?」
「……」
「?」
ルナが名前を告げると男は目を開けて固まってしまっていた。
何事かとルナは男の顔を見る。
やがて男は新しい葉巻を取り出して、指をパチンと鳴らして先端を斬り落とした後に、火が付いた。
「持ってきな」
「えっ?」
「スターズっていう名前には少し縁があってな。
これをただでくれてやる程度には恩もある」
男は葉巻を加えて、どこか懐かしそうな顔をする。
「今日、スターズって名前に反応されたの二人目だわ。
この名前なんかあるの?」
「さぁな。
その人もスターズの誰かに世話になったんじゃないか?」
「ちなみに名前の方は?」
「スターズとしか名乗られなかったよ。
悪いね」
「そう、わかったわ。
あと……」
ルナはポケットから銀貨を取り出して親指で弾く。
それはこの国で使われている硬貨だ。
「おい」
「私は私、その人はその人。
恩を返すならその人にしっかり返さないと意味ないわよ。
贖罪のつもりならなおさらね」
「……手厳しいねお嬢ちゃん」
「ルナって名乗ったでしょ」
「そうだったな。気を付けなよルナの嬢ちゃん」
「えぇ、ありがとう。
良き隣人との出会いに感謝を」
「あぁ、良き隣人との出会いに感謝を」
冒険者の挨拶をしてルナは髪飾りを持って立ち上がりミナイの手を引いて「次行きましょ」と別の店を見回るために歩き出す。
ミナイは何が何だか分からないという顔をしていたが、ルナの手に引かれるまま足を動かした。
☆
「彼女がウチの膿を文字通り斬ったって子か。
あの人にはとても似ていないが……娘がいるとは聞いたことないし、養子?
んー、連絡取らない内に逝っちまうとは考えていなかったからなぁ」
男は再び葉巻を加える。
さてそろそろかなと考えていると構えている店の後ろから静かに声をかけられた。
「お戻りください殿下」
「はいはい、わかってますよ。
せっかくのどんちゃん騒ぎだってのに休まらないねぇ」
「商いの類なら城内にでも商人を呼べば」
「俺は騒ぎの中に混ざりたいタイプの人間なの」
「王族が気軽に外に出るなつってんだよ」
「ヒードル。地が出てるぞ」
「失礼、殿下に腹が立ったもので」
「不敬っ!お前不敬っ!」
「いいから帰るぞ。
というかなんだその根暗な顔」
「あっ、いいでしょ。
新しい変装用の魔道具を試してみた」
「どこで買い付けてくるんだそんなの」
「ミーリン」
「あの魔女がっ」
男は、ドラグニア第三王子『イザパレス・ドラグニア』は変装したままいそいそと片付ける。
護衛であるヒードル・ナイールも大きなため息を付きながらそれを手伝った。
「それでお前から見てあの子はどうだった?」
「愚妹の方ではないですよね?」
「うん、もう片方」
「悪くない娘だと」
「あらそう?」
片付けの手を止めてイザパレスはヒードルを見る。
対してヒードルは手を動かしながら話を続ける。
「体つきや歩き方を見るに、肉体の方はそこそこ出来上がっています。
騎士団でしっかり鍛錬しているというのもありますが、本人にもその才があったのでしょう」
「ふーん、そうなの」
「殿下もそれはお分かりだったでしょう。
直接見て、お話されたのですから」
「他者の意見を聞くのも上に立つ者の務めだよ」
「また適当な……」
ヒードルは本日何度目かわからないため息をつく。
「そういえば、アルテイシアの騎士団が調べてることの報告は?」
「進展ありとのことです。
戻られたら書類に目を通してください」
「めんどくさいなぁ」
「またそれとは別に」
「なによ」
ヒードルは顔を顰めながら、今の小さな声より更に絞ってイザパレスに伝える。
「ガロン・インダーの遺体が消えたそうです」
「……えぇ~」
イザパレスはなにやら面倒ごとの臭いが漂ったことに頭が重くなった。
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