第4話 入団準備
あれからルナは建物内を歩かされた。
ここは王都内で第五騎士団が預かる駐屯地らしい。
宿舎や訓練所、馬小屋や武器庫などの一通りの設備が揃えられているとのこと。
それでも騎士団の中では小規模だと言う。
「ここは団長が立ち上げた騎士団だ。
だから小規模とはいえ、しっかりとした設備が整えられている」
「そう」
「主な活動内容は王国内の内部調査や他の騎士団では対応が難しい案件の対応。
現在王国を騒がせている集団の調査もその一つだ」
「そう」
「人材の選定は団長自らが行なっている。
騎士学校は勿論、他の騎士団から引き抜かれることもしばしばだ」
「そう」
「……聞いているのか貴様?」
「聞いているわよ。
食べてる途中に口を開きたくないだけ」
ルナは食堂にてたらふく食べ物を食べていた。
投獄中や輸送中にまともな食事をしていなかったのだ。
少女とはいえ育ち盛りにはキツい仕打ちだったわけで。
「ならいい。
全く、なんで俺が」
「あのまま教育係に任命されたからでしょ。
えっと、名前なんだっけ」
「ミレイズ・ガーマンだ!
お前の先輩だぞ!敬意を払え、敬意を!」
「はいはいミレイズ先輩」
「最初から名前呼びか、失礼なやつめ」
ミレイズは不満そうな顔で水を飲む。
兜の中身は金髪の優男だった。
だがルナのお陰でずっと眉間に皺を寄せられて魅力が半減させられている。
ルナはそんなのお構いなしにと食事を続けた。
ここの食事はとても美味だ。
良い材料をふんだんに使われていることがよく分かる。
丈夫な身体を作るのにはちゃんとした栄養を取らなければならない。
叔父の話の中でそう聞かされたこともあった。
その割には叔父の料理は雑だったので自分が覚えるよう頑張ったのは良い思い出だ。
叔父が亡くなってまだ数日。
朝起きれば、また声が聞こえそうな気さえする。
食べ物を飲み込み少し考える。
「どうした」
「いや、叔父さんのお墓を建てられなかったなって」
「それは」
「それは大丈夫だよ〜。
近所の人が共同墓地に埋葬してくれたって言ってたから」
ルナ達が座る席に若い女性が近付いていた。
茶髪にポニーテールが特徴的で、見るからに明るそうだ。
「一応初めましてかな?
ミナイ・ナイールって言います。
気軽にミナイって呼んでね。畏まらなくてもいいよ」
「初めまして、ルナよ。
丁寧に喋るのは苦手だから助かるわ。
ところで一応って?」
「私も馬車の隣にいたんだよ。
兜被っててわからなかっただろうけど」
「あぁ、なるほど。
叔父さんの事を教えてくれてありがとう。
良き隣人の出会いに感謝を」
「あっ、それ冒険者の人がやってるやつだ」
「叔父さんから教わったの」
「良いよねそれ。
冒険者の人は面白い風習があって好きだよ」
「ふんっ、あんな野蛮な無法者共の何処がいいんだか」
「あぁ?ぶん殴るわよ?」
「ほれ見ろ。野蛮だ」
「今のはミレイズが悪いでーす」
「なんだとっ」
「ははっ、元気なことで結構結構」
ミレイズが立ち上がるとまた一人、席に近付いてきていた。
頭を丸めてる男性だ。
年齢はこの場の三人よりだいぶ上だろう。
「改めて初めましてルナ嬢。
私はウンズ・カカルと申します。
馬車に同行したものの一人です」
「初めまして。
確か私に食事を渡してくれた方ですよね?
ありがとうございます」
「おや、おわかりでしたか。
外では兜を外して顔を合わせたことは無かったと思いますが」
「その優しい声を聞けば誰だってわかりますよ。
良き隣人の出会いに感謝を。これからよろしくお願いします」
「はっはっはっ、これは丁寧にどうも。
なかなかどうして、聞いた話とは違ってしっかりしたお嬢さんですな」
ウンズは微笑みを浮かべ、そのやり取りを見ていたミレイズとミナイは目を丸くしていた。
「できるじゃん、丁寧に喋るの」
「その敬意を何故俺にも向けない」
「私だって相手は選ぶわ」
「このっ」
「ミレイズ落ち着きなさい。
全く、すぐ激情に駆られるのは君の悪いところですよ」
「えぇっ!?これ俺が悪いんですか!?」
「騎士たるもの、平常心を心がけなさい」
「それならミナイはどうなんですか!」
「えっ、やだ。こっちに飛ばさないでよ!」
「ミナイももう少し落ち着いてたほうが」
「えー!お説教は勘弁ですよぉ!」
元気な人達だな。
そんなことを感じながらルナはパンをパクりと食べ続けた。
☆
「お前の装備を見る。
これらを使用するものだからな」
「重いのは苦手なんだけれど」
「軽装もあるから安心しろ。
ある程度の調整も効く」
「ルナちゃんはぱっと見、軽戦士タイプだよね」
「……なんでお前がついて来てるんだ」
ミレイズ、ルナに続いてミナイがその後に続いていた。
ヤハハと笑いながらその問いに答える。
「私、今日はもう非番だし。
せっかくだから色々手伝おうかと思ってさ。
それにミレイズが女の子の相手をちゃんとできると思ってないから」
「女の子といえるかこいつ?」
「あら、清き乙女に対してひどい言い草ではなくて?
それではモテませんわよ」
「どこで学んでくるんだそんなの」
「人生」
「言ってろ」
ミレイズは深いため息を付いていると武器庫に到着する。
扉を開けると武具がずらりと並んでいた。
鎧、兜、盾、剣、斧、弓、杖。
多くの種類が綺麗に整理整頓されていた。
中に入り、ルナはキョロキョロと見渡す。
「ここの武具は大体が他の騎士団のお古だが、それでもしっかりとした造りをしているから今でも現役で使用できる」
「へぇ~、なんで?」
「自然に劣化しないように保護のエンチャントがかけられているからだ。
もちろん月一でかけ直したり、しっかりとしたメンテナンスを行う必要もあるがな」
「便利ね」
「まぁ私達が使ってる奴は自分でメンテしているけどね。
保護魔法は時間による劣化を防いでくれるだけで、斬ったり叩いたりすれば摩耗するし」
「ふぅん」
話を聞きながらルナは物色する。
その中で最初に手に取ったのはロングソードだった。
叔父が使っていたものによく似ている。
そういえばあの剣は押収されたまま返ってこなかった。
一体今はどこにあるのだろうか?
「あっ、そういえばロングソードは一緒にお墓に埋めたって」
「そうなの?」
「殺人に使われた凶器を返すのはどうかと思うが、団長の意向でな。
流石にお前に渡すことはしなかったが」
「別にいいわよ。
あれは元々叔父さんのだしね。
あるべきところに還っただけ」
あの剣を思い返しながら鞘からロングソードを抜いて、その腹を撫でる。
重量も大体同じくらい。
もう少し軽いのを選んでもいいかもしれないが、そうなるとこれよりサイズが小さいものを振るうことになる。
どうせこれから筋力をつけることになるし、このくらいがいいだろう。
「武器はこれでいいわ」
「いいの?ルナちゃんならショートソードとかでもいいと思うんだけど。
片手開くなら盾も握れるし」
「前から両手で振るう稽古をしてきたの。
それに初めて握った武器種もこれだし、こっちの方がきっと手に馴染むのよ」
「んー、まぁ本人がそういうなら」
「動きは訓練していけばいいだろう。
幸いにもこの騎士団はロングソードの使い手が多い。
そこから学べはいい」
「そうするわ」
次は防具だ。
本当なら全身を覆う鎧を選ぶべきだが、残念なことにルナがそれを着て自由に動けるとは思えない。
装備しても動けそうなものを選んだ。
兜、
ブーツのようにまとめて装備できるようになっているのは楽で助かる。
選んだものを装備して軽く動かす。
「上はともかく、脚が重いわね」
「まぁそれは慣れかな」
「魔力で身体を強化すれば多少はマシになるだろ」
「なにそれ?」
「「えっ」」
ルナの疑問に二人は驚いていた。
何を驚いているのかわからずにルナは首を傾げた。
「魔力って魔法を使うのに必要なものでしょ?
私、身体を強化する魔法なんて使えないわよ?」
「いや、そうではなくて……」
「……ねぇ、ルナちゃん。
ルナちゃんって兵士をなぎ倒したって聞いたけど」
「なぎ倒したなんて言い方は野蛮ね。
ちゃんと剣の腹で死なない程度にぶっ叩いただけよ。
動きは単調だったし、頑丈な防具だからちょこちょこ頭も叩いてたりしたけど。
あとは転ばせたりとか、誘導して同士討ちさせたりとか。
あぁ、あとは鎧の隙間引っ張って別の人にぶつけたりもしたわ。
まぁ流石に途中で体力が切れて取り押さえられちゃったけど」
「その時は素の力でやったのか?」
「火事場のなんとやらってやつじゃない?」
「そうか……そうか……」
「なに?」
確かに暴れるに暴れたが、人間やろうと思えばあれだけのことができる。
見るからに標準的な村娘というルナがやったのだからそのはずだ。
少なくとも本人はそう思っている。
「ルナちゃん、生き物は魔法が使わなくても魔力だけで身体を強くすることができるの。
こう、お腹に力をいれると腹筋が硬くなるでしょ?
そんな感じで魔力を身体に巡らせると身体にグッと力が入るんだ」
「ふーん、そうなの。
じゃあそれも教えてもらわなくっちゃね」
「……となると魔法の適正も見なけばならないか。
やることが増えるばかりだ」
「大変ね」
「お前のことだろスカタン!」
「まぁまぁ。
ところで上の鎧の方は大丈夫?
胸が苦しいとかない?」
「えぇ、大丈夫。
肩回りも結構自由に動くから今のところ不便に感じないわ。
あとは実際に動かないとわからないけれども」
「今着て大丈夫なら問題ないだろう。
まぁ、あった場合はすぐに進言しろ。
装備に不備は自身の命に関わるからな」
「わかったわ」
剣帯を付け、剣を装備する。
騎士と言われれば騎士だが、ぱっと見冒険者のソレに見えなくもない。
不満を上げるとすれば兜で視界が狭まって、呼吸で吐いた息が帰ってくるのが嫌だなということだろうか。
「兜脱いじゃダメ?」
「構わないが、頭狙われて死んでもしらんぞ」
「被ってない人はいないの?」
「いないことは無いが、それらは大体が防御の魔法やスキルを持っている。
そこのミナイもその一人だ」
「私は発動するのに時間がかかるから被っているけどね。
乱戦とかになったら脱いじゃうよ」
「そう。
じゃあそこも勉強しなきゃいけないのね」
学ぶべきことが多いなと思い、兜を脱いだ。
「お前って結構勤勉なのか?」
「必要なことは学ぶべきだと思ってるだけよ。
嫌でもここにいるわけだし」
「必要じゃなければ学ばないのか?」
「取捨選択の判断は冒険者の基本よ」
「手数が多いことに損は無いと思うが」
「手に持てる物には限界があるの。
多くても必要な時に使えなければ意味が無いわ」
「まぁ、一理ある」
「そろそろ休みたいんだけど。
流石に疲れた」
馬車による長旅から色々とぶっ続けで身体を使ってきた。
流石にルナはクタクタになっていた。
目の前の二人はやはり騎士だからか、ルナのように疲労を感じさせていない。
無論、そう見せているだけかもしれないが。
「そうだな、本格的な指導は明日からにしよう。
むしろよくここまで動ける体力があったな」
「わかってるならさっさと休ませてほしかったわよ」
「意外とルナちゃんが元気だったからね~。
ミレイズも早めに済ませられることは済ましたかったんじゃない?」
「そうなの?」
「否定はしない。
ある程度の準備ができなければ次の行動に移せないからな」
「そう」
「じゃあ、私がルナちゃんに宿舎の案内するね。
あとは任せて」
「んっ、そうか。
そうだな、あとは頼む」
ミレイズはそう言ってその場を立ち去った。
「じゃあ部屋に案内するね。
私と相部屋だから」
「そうなの?
よかったわ、一人だときっと毎晩寂しくて涙ポロポロ流してしまうところだったの」
「はっはっはー、全くそうは見えない」
「そうね。
ぶっちゃけ復讐終わってるから泣く理由無いわ」
「わぁ~」
和気藹々と話しながら二人は宿舎に向かって歩き出した。
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