第2話 復讐は既に終わっている
「それで領主を殺したと?」
尋問官、ジャッジは頭を抱えたい気持ちになりながら目の前の少女に聞く。
貴族暗殺という大ごと故に、休暇でたまたま近くにいたこの男がこの地に赴く羽目になった。
「えぇ、そうよ。
悪い?」
「悪くなかったら君は捕まってないんだよなぁ……」
少女、ルナ・スターズは真っ直ぐと正面を見据えながら言う。
ルナは叔父が殺されたその日の夜に領主であるガロン・インダーを暗殺した。
その後、兵を何人もなぎ倒して暴れ散らかしたという。
死者はガロン一人。
妻子は持たず、親族も既に亡くなっている。
つまり王国の貴族の血が一つ途絶えたことになる。
ガロンはあまりいい話を聞く男では無かったが、それはそれとして彼も王国の貴族であることに変わりはない。
ぶっちゃけてしまえば、ルナはこんな尋問をする必要なしに即刻処刑をされてもおかしくはない。
そうならないのは、最近王国で騒ぎを起こしている犯罪集団がいるからだ。
もし、彼女がその一味であるならば情報を聞きださなければならない。
ならないのだが……。
「そもそもあいつは元から気に入らなかったわ。
若い子には下心丸出しの視線は送るし、平気で尻揉んでたし。
中には屋敷に連れてかれた子もいる。
殺されても文句は言えないんじゃない?
別に死んでも問題ないでしょ」
「うん、ちょっと黙ろうか。
君の言葉は下手すると剣より鋭いからね?
というか人殺して罪悪感は無いのかい?」
「復讐出来てスッキリしたわ!」
「そっ……かぁ!」
どうやらその関係者ではないようだった。
それはそれとしてやばいやつである。
なんで身内が殺されたその日に敵討ちができるんだとか、独学の剣で訓練された兵士を何人も打ちのめせるのかとか。
普通に野放しにできない。
とはいえ、貴族を殺した犯罪者であることには間違いはない。
まぁ、調書をまとめた後にしかるべき罰則が下されるだろう。
(いやまぁ、良くて犯罪奴隷かな)
そんなことを考えていると部屋の扉がノックされる。
ジャッジはルナを尻目に扉を開けた。
そこにいるのは一人の騎士。
ガロンの後始末にしに派遣された者の一人だった。
ジャッジは部屋を出て扉を閉める。
「どうした?」
「実はインダー男爵の館からこんなものが……」
「なに?」
騎士が渡してきたものを受け取り、目を通す。
それは最近王国を騒がせている犯罪集団との繋がりを匂わせる様なものだった。
ジャッジは眩暈がしてきた。
「……急いで詳しく調査をしろ。
まだ残っているものがあるはずだ」
「ハッ!」
騎士は敬礼をして、すぐに持ち場に戻っていた。
ジャッジが推測するに、ガロンは油断していたのだろう。
このような証拠は余程のことが無い限り見つかることが無い。
仮に隠すような事態があるとしたら王国からの視察などがあった場合。
だが、予想外に少女の手によって殺されることになってしまった。
隠すものも隠せなくなってしまったわけで。
勿論、ガロンの息がかかった者もいただろうが……。
「あの子が大体ぶちのめしてるんだよな……」
とはいえ、大して成果は得られないだろう。
ガロンは集団の一味ではなく、情報を流す協力者と言ったところ。
無いよりはマシぐらいの情報ぐらいは手に入るだろうが、それだけだ。
「しかし、禍を転じて福と為す……といったところか?」
異国のことわざを口にしてジャッジはまた考える。
これでガロンは貴族の一員から逆賊の一人になる。
ルナのおかげでこれらの結果が得られたわけだ。
「うーん……めんどくさいし、もう丸投げするか」
そう思い、一つのガラス玉を取り出した。
ガラス玉に波紋が広がると一人の女性の顔が映し出される。
「団長、今よろしいですか?」
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