第二章 青常 水曜日
4 水曜日
アラームの音に逆らわず目を覚ました時刻は8時、二限の授業に間に合うには充分な時間だ。ちなみに時間割通りだと6時半に起きなくてはならないのだが、一限の授業は初回に出ただけで、残りの回は一度も
ただ気になるのは、どうやら学生の出席率はなかなか高い授業らしい。初回の授業に人数が増えるのはこの大学の慣例だが、その後も同水準の人数を維持し、充実した授業が行なわれているというのを風の噂で聞いた。レジュメを見ても空欄はなく、特別話を聞いて書き加えるような事柄もなさそうだが、よほど先生の話が面白いのだろうか。確かに初回のときに、何度か学生の笑いを誘うなどユニークな印象を受けたが、眠気を吹き飛ばすほどのインパクトはなかった。だができれば、このまま僕の感覚がズレていることを願いたい。西井という頼みの綱がいない中、先生の人気ではなく授業内容の必然性でそうなっているのなら、僕としてはかなりの失態である。来週にでも一度、確認のために赴いてみようか。いや、やっぱり再来週にしよう。
学校に着き二限の第二外国語の授業を受けた後、いつもは学食に向かう足取りを、売店へと変えた。並ぶ列の前の方に知り合いの姿が見えたが、僕には気付かず行ってしまった。
弁当を買って次の授業の教室で食べていると、サークルの溜まり場にいるらしい西井から「来ないの? 今どこ?」とメッセージがきた。スルーしようかと思ったが、どうせ意味がないと思い「もう教室いる」と返信した。すぐさま来た「了解」という返事を確認し、その後弁当を
十分ほど経ち、西井が教室にやってきた。
「なんで来なかったん?」
「寝坊して二限サボったから、飯食ってから来た」
「ああ、そうなんだ」
真っ赤な嘘を信じ込む西井に、
だが許せ、西井。見えない鎖が散りばめられているこの大学生活で、一〇〇%を謳歌している人間などそういない。誰でも悩みがあると言うが、誰もが同じ悩みを持っているわけではない。みんな自由な意思という抽象的なものに身を預けさせられながら、子供と大人の間にある何かしらの鎖に繋がれ、自立の階段をスムーズに登る者と、
だけど僕は、少しでも自分が出せる場所にいたいし、少しでも心の通じ合う人間と時間を共にしたい。どうやらなんとなくで入ったフットサルサークルは、時間と金と、生活に対する必要悪だったみたいだ。今はただ、貴重な社会経験を与えてくれてありがとうと言いたい。
三限の授業が終わって早々、西井が立ち上がり「行こうぜ」と言ってきた。それに対する僕の応答は「今日四限出るわ」というものだった。西井は驚いた表情を隠せずにいたが、程なくして「そうなんだ。じゃ、先行ってる」と言って、共に教室を出た。その後西井は学食へ行き、僕は大教室があるエリアへと向かった。もう少し凝った言葉を送った方がよかっただろうか。いや、別にいいだろう。今の彼は僕にとって、高校生以下の存在なのだから。
一応授業にはちゃんと出席した。この授業にも初回以来ほぼ行ってなかったが、久しぶり出席してみると案外面白く、内容も理解できた。高校時代は暗記すら碌にやってこなかった歴史系だったが、最近のクイズ番組ブームに触発されてか、聞いたことのある用語の応酬にはつい耳を傾けていた。
四限が終わり、少しの間、教室に留まった。サークルのグループラインは、練習参加や時間の確認で賑わっている。西井もその賑わいの中にいた。段々と教室から人が去り、先生に質問しに行った人も帰路に就いた頃、僕も教室を出た。
その次の瞬間から、学食を避けながら昨日と同様に真っ直ぐ家に向かった。
だが昨日との一番の違いは、サークルの誰に対しても連絡をしなかったことだ。それはこれからも続くだろう。もう僕にとって、大学生活の充実シミュレーションは必要ない。欲しいのは、
18時半頃に地元の武蔵浦和駅まで着いた後、近くにあるバイト先に寄ろうと思ったが、その周辺がやけに混雑していたようなので、また真っ直ぐ家に向かうことにした。昨日と同様、家の中で機嫌が良いということが自分でもわかった。今日に関しては、どちらかというとスッキリしたという方が強い。
その晩、翌朝が6時半起きなのもあったが、なんと22時には床に就いていた。最近特に寝不足でもなかったが、
いくら眠気が強くてもさすがに妨害の域に達していたので、相手を確認せずにマナーモードにした。アラームがマナーモードを貫通することを信じて。
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