79話

 感覚が戻ってきて感じられたのは、ふわっとした感触だった。


「ん、毛布ありがと」

「ちょっと温度下がってるっぽかったから」


 春先とはいえ、まだまだ冷えることも多い。二階だからと油断していて風邪をひいたのは去年のこと、姉も覚えていたようだった。


「VRゲームってさ、いろいろ不便じゃない? こういうときとか」

「外の状態を知らせる機能、あるけどね。ポッドタイプだと体温も測ってくれるんだけど、市販のはあんまり」


 肌が密着するので、温度はあまり上げられない。形状や体積も考えると、そんなにいい空調は積めないので、金額のわりにはそのあたりの性能に不満が出がちだ。そのあたりは、バイザータイプの方が布団で調節できるぶん有利だとされている。


「おねむですなぁ。けっこうガッツリ戦ったでしょ」

「うん。けっこうふわふわしてきた」


 VR空間で集中力を振り絞ったあとは、現実でもそれなりに疲れる。体の疲れはないはずなのだが、成長期だからとか、眠くなる体のリズムだとか、そういうものなのかもしれない。


 ふわふわと温かい体が揺れていて、眠気が少しずつ増していく。


「お姉ちゃん……」

「なになに、かわいいこと言う?」

「いっしょに寝る?」

「いいよ? どうせだし、抱き枕にしてやるんだぜー」


 ほれ、と案内されたベッドに座って、ころんと寝転ぶ。


「ほんと、寝るときはふにゃっふにゃになるよね。かわいいぞー」

「うん……」


 返事もあいまいで、目もつむりかけなので、とりあえずわずかにひんやりした姉に抱きついた。


「おぉー、自分からかぁ。よいぞよいぞ」

「やらかい……」

「みちっと合わせだからねー。昔を思い出すなぁ」

「ん」


 聞こえている言葉の意味もよくわからないまま、俺は温かさにぐりぐりと頬を押し付ける。目は閉じていて、もうほとんど眠っている。


「すがすがしいくらい、いつも通りだね。いいことなんだけどさ」


 明かりが消えた。

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