75話

 全員の攻撃が同時に命中しても、敵はほとんどひるまない。異常なタフさと、こちらの利点だったはずのクイックチェンジを兼ね備えているので、敵から見た俺のようなものなのだろう。


「コアがちゃんと戦えるってところが、めちゃくちゃ厄介だな!」

「属性どれでもほぼ意味ないから、もう単純に上げちゃうね?」

「頼んだぜ、バフ部隊」

「頼まれましたよー!」


 ローペがドラゴンと一緒に味方へのバフを噴き上げ、ピュリィは妖精と手をつなぎながら岩の巨人にデバフを投げる。


「ゾードさん、どのくらいいけますか?」

「入れ替えなしでも、お前と大して変わんねえと思うがな」

「なら、大丈夫ですね」

「はっ、えれぇ信頼されてんなあ?」


 打撃と追加ダメージが主体だからか、ムチの耐久度はそこまで減っていない。文字通り削り切るしかない敵を相手取っては、耐久度も心配になろうというものだ。そもそも、耐久度でディスアドバンテージを背負っているのは紙だけだが……敵がここまで強いと、周りも気になってくる。


 うなりをあげて振るわれる腕を手刀でさばき、顔面のコアにムチを叩き込む。わずかにひるんだところへ攻撃が殺到し、敵は大雑把に衝撃波を放った。すさまじく研ぎ澄まされたそれを前転して避け、そのままかかとを叩き込む。


「なんだ、新体操か?」

「ちょっと格ゲーやってきたので、動きを活かしたくて!」


 すべすべの素手に裸足でも、岩肌を殴れる。ゲームとはそういうものだ。


 ビンタを止めたチェーンソーをかいくぐって、こするようにムチの先端を叩きつける。後ろから飛んできた魔法と光が、ちょうど横へ跳んだ俺たちをすり抜けて、敵の顔面で大爆発を起こす。


「再生……もうストック切れか?」

「仕入れが偏ってたんでしょうか」


 かなり黒っぽくてきめ細かな腕の岩とは違って、顔面とコア付近の岩は青いプラスチックめいた質感の岩だった。赤いものがチロチロと弾けるように光るその材質だけ、ストックが少なかったのかもしれない。


「これって、そのまま素材落ちるんですよねー?」

「そうだね。スタートダッシュキャンペーンみたいなものだ、僕らに落ちたぶんも君に渡しておくよ」


 のんきな会話をしていても問題ないくらい、やり方はスムーズに決まっていった。化け物じみた耐久と再生力があっても、こちらの火力はそれを上回っている。敵も、とてつもなく強いはずだが……実力者が四人も集まると、そこまでではないようだった。


「ゴウ……!」

「パーツの配置はいじれなくとも、守れるってか!?」

「こちらは牽制に回る。前衛で頼めるかい?」

「もちろんです!」


 白い光がいくつも降り注ぎ、敵はなるべく避けようと小刻みな動きを繰り返している。しかし、ムチはそれを逃さない。ビシュッ、バシンと敵を打ち続けるムチは、かなりの勢いでNPLを削っていた。


「っし、ぶち抜くかァ!」

「ゴゴ……!!」


 掘り進むように、チェーンソーはゴリゴリと敵の腕を削り続ける。わずかに進むごとに〈クイックチェンジ〉が押し返すが、膠着状態には砲撃もばかすか命中していた。


「ゴッ、ゴウ……!?」

「全員、コアだ!!」


 異口同音に言葉が返り、それぞれの必殺技とも呼べるものが炸裂する。


 青い氷槍、真っ赤な拳刃、闇の球体、大小のビーム、そして緑のムチ。


「ゴウ、……」

「まだ動け……って、逃げる気か!」


 コアだけになったNPLは、恐ろしい勢いで跳躍して逃げ出した。


「ザクロさんっ!」

「はいっ!」


 敵の逃走経路をすり抜けた〈サイドワインダー〉が止め、〈バードキャプター〉が小さなコアをがっちりと括る。思いっきり引っ張ったまま飛んできたコアを、倒立蹴りで地面に叩きつけた。


 コアはさらさらと砂に変わり、そして光の粒に変わった。


「やりましたね、ザクロさん! あんな方法で防ぐなんて……」

「格闘スキルは習得してないので、威力は最低なんです。ダメージの拡散も最低限で済みましたし……」

「それに、すごくえっちでしたよ!」

「えっと、……はい」


 男性陣を見ると、錫児さんは腕を組んでうなずいているけど、ザイルは目をそらしていた。ゾードは「こりゃ厳しいな」とどういう目線なのかわかりづらいコメントをしている。


「よし。アンテナの復旧にかかるか」


 ゾードが小箱を取り出した。




※十一月中旬、ようやく就職できたので、以降から投稿ペースがものすごく落ちます。ご了承いただけると幸いです。

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