74話

 錫児さんの援護射撃が命中し、ついに敵は動き出した。


『ゴウ……』


 ものすごい光の奔流に見えるのだが、実際の威力はかなり抑え目らしい。もしかすると、相手の黄属性耐性がものすごく高いのかもしれなかった。


『出番が先ならまだ寝てるぜ、マイマスター』

「いいよ、そのときに起こすから安心して寝てて」


 ぱらぱらと石のかけらは落ちているが、その程度でとどまっている。防御力もさることながら、HPがものすごく多いようだ。


「なんか自信でもあんのか?」

「このライヴギア、追加ダメージが強いやつなんです」

「ほお……案外、ばかにならねえかもな」

「今は変えられないので」


 先に言えバカ、と小言をもらいながらも、俺は敵にムチの一撃を叩き込んだ。ゾードの〈サイレンス〉にも匹敵するほどの轟音が響き渡り、親指ほどの礫片がごろりと落ちる。しかし、傷は瞬時に消えた。


「〈クイックチェンジ〉……!?」

「このクソ耐久が再生すんのかよ!? 岩を削るなら……青属性だな!」


 ザイルが式神を変形させるのと同時に、ローペも「〈スポットライト〉!」と唱えた。


「緑じゃちょっと分が悪いとは思うけど、とりあえず削るからなー!」

「頼みます! 前衛で押さえるので!」


 浮遊するバズーカのようなものから、青い光が注がれている。どうやら、特定の耐性を思いっきり下げる特技のようだ。


「思ったように切れねえな……こっちで行くか」


 ゾードは、初期型のロボットスーツで殴り合いを始めた。砂が散って、視界が一気に茶色く変わっていく。優勢に傾き始めたかと思ったが、そこまで簡単でもないらしく、敵はぶるぶると震えて力を溜め始めた。


「ゴゴウ……」


 ようやく姿を見せた赤い眼球が、ますます光を増していく。


「まずい、何かを仕掛けてくるようだ……! この股間では止められない!」

「てめえは出すモン出しとけ! おいザクロ、どうすんだ」

「回避はできます。ちょっとシビアですけど」

「相変わらずむちゃくちゃだぜ……心配しなくていいんだな」


 敵を一発殴り、その反動で大きく距離をとったゾードは、腕をクロスさせてがっちりと防御を固めた。ザイルはローペの変形させたライヴギアの陰に隠れ、ピュリィも甲羅のようなものを呼び出して防御態勢に入っていた。


「ゴウ……ゴ」


 紅の衝撃波が放たれ、砂がぶわりと舞い上がる。


 ムチで〈ヒドラスイング〉を繰り出しながら、同時に〈玻璃薄曇がらすのくもり〉を使う――最初の衝撃波は存在が揺らぐ回避ですり抜け、吹き付ける砂はこちらからの攻撃でぎりぎりまで抑える。


三億塵紙に死すビフォア・ワイズマン!!」


 無数の光の矢が殺到し、NPLはわずかにひるんだ。


「なんで生きてんだよお前は……」


 防具は見た目に反映されないし、見た目はフィルムで決まる。だからこそ、ブーメランパンツだけに見えても防御力がこの中で最強……ということも、もしかしたらあるかもしれない。たぶん違うけど。


「糸口は見えないが、このまま削り切れるはずだ。引き続き、全力でかかろう」

「言われるまでもねぇよ。ちっと心もとないがな……」


 最強というわけではないが、手堅くまとまっている。早くはないしテクニカルでもないが、簡単に相手取れるのにそのままでも強い。おそらく、初心者でも倒せるようになっている敵なのだろう。


「ふふっ……」


 強くなっている敵を、強いまま倒す……ライヴギアを切り替えられないという縛りが生じた今、それは最高に楽しい愚行だった。

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