72話

 大仰な門の近くに集まったメンツは、とても濃かった。


 アーミールックに角刈りの青年、忍び装束の少年、記者風のボーイッシュな少女……それに加えて、股間からマンモスの牙を生やし麻袋で顔を隠した男性、レオタード姿の少女が二人、ひとりは目隠しまで付けている。


 股間マンモスもたいがいおかしいが、それ以上に目隠しにレオタードもヤバい。シノビと記者の兄妹がまともに見えるほど、全体的におかしかった。


「おし、集まったな!」

「ねえちょっと……なにこの人たち」

「いや、これでも一騎当千っていうか、うん……ザクロさんが三十人倒したって言ってただろ? 全員同じことできるはず」

「わたくしは一段劣りますよ? 対人は慣れてないので」


 ゾードと俺は、PKの集団を単騎で片付けたことがある。錫児さんはたぶん火力でいえば最強で、一撃で同じことができそうだ。ザイルは別に弱くはないし、ピュリィもかなり強い方だと思う。


「ザクロくんとザイルくんが紙で、ピュリィくんと僕が骨、ゾードが機械。きみは何を使ってるんだい?」

「あっはい、石を使ってます」

「ほお、安定重視か」

「配信はあっちこっち行かないとですし? 無属性技あるほうがいいですね」


 五種類あるライヴギアの中でも、もっとも癖が少ないのが「石」カテゴリらしい、とは聞いていた。真剣に集めていない情報で分かるのはその程度だが、確実に分かるのは「何をやってもだいたい強い」ということだ。


 配布される初期装備が存在せず、店売り装備を揃えるしかないというトガりまくったシステムの『ナギノクイント』では、初期状態のプレイヤーがものすごく弱い。そのため、多くのプレイヤーが最初から金欠に陥りがちだ。


 しかし、ライヴギアに攻撃性能があれば、少しはマシになる。ダンジョンが多く用意されているので、モンスターを倒せばお金も経験値も手に入る……当然、誰もがライヴギアに戦闘能力を求める。機械は筆頭だし、骨も悪くないらしいとなれば、デフォルトだと論外とされている紙と液体以外は石しかない。


「イベント関係のモンスターってのが、どうやらNPLのらイヴらしくてな。星霊アストの性能を試すいい機会だから、出しちまおうぜ」

「なんですか、野良イヴって?」


 ゾードがこちらに向けて視線を送ってきたので、俺が説明することにした。


「ノンパーソナライズド・ライヴギア……独り歩きしてるライヴギアです。私が見たのは、骨のアンキロサウルスみたいなのでした」

「ふーん。リビングソードみたいなものなんですかねー……」


 言いつつ、記者風の少女「ローペ」はパタパタ飛ぶドラゴンの幼体を呼び出した。


「フレイくんです。皆さんのは?」


 俺とゾードが小箱、ザイルとピュリィは妖精で、錫児さんはとくに何も出していなかった。もしかしたら、まだ決めあぐねているのかもしれない。


「てめえもこいつを選んだのかよ……またやり合うのが楽しみだぜ」

「ええ。今はまだ戦えませんけど……」


 クエストクリアの条件が不明なので、どうすればライヴギアが解除できるのかも不明のままだった。


「では、強敵を倒しに行こうか。スペック差は動きである程度埋まるはずだから、あまり心配しなくていい」


 恰好からは想像もできないほど真っ当なセリフで、錫児さんは先導を始めた。

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