66話

 買い切り型であるせいか、『だぼパ』には複雑なパラメータが設定されていない。敵の行動ルーティンもどちらかといえば単純であり、対処法は確立されている。そのうえでほかのゲームの常識が通じないところが低評価されているのだが……明確に「これなら問題ない」と言われるほど、攻略に向いたキャラも存在する。


 ネビュローグ、オドパルミール、ジャートハイスと並べていっても、帰還兵からはたったひとつの言葉しか引き出すことはできまい――「ラヴィグナでよくね?」というコメント、それこそがこのゲームのすべてである。


 とにかく面積の多い武器、遠近両用、防御も固く疑似回復も可能。


 ラヴィグナは、このゲームにおけるすべての不満点に対応している。あるいは開発会社がまともであれば、救済用だと思われても不思議ではない。生成AIによって偶然生まれた彼女は、鬼畜ゲーを遊ぶものたちへ救いをもたらす聖女となった。




 時間はすこし遡り、カリナが戦い始める前のこと。


(強い……ッ! やべーな、インチキすぎるぜ!)


 うわごとのように繰り返されてきた言葉の真実を、少年「ライブル」は知ることになった。どのように強いのか、なぜ勝てないのか、どうすれば対応できるようになるのか。知っていようがいまいが、ラヴィグナが最強であることは間違いない。


 新緑のキラメキナイト「ジャートハイス」は、ラヴィグナに並ぶ破格の性能を持つ。ほとんどの分子に入り込んで侵食し、雪だるま式に膨れ上がる鉱物「ベタスカイト」の力を宿す彼は、歩けば歩くほど大きな兵器を召喚できるようになる。


(砲台が、もう……!!)


 二丁拳銃とビーム砲台を武器に、彼は入り組んだ荒野を自分のフィールドに変えていったつもりだった。しかし、ジャートハイスの侵食能力にも制限はある……彼は、やりすぎたのだ。


(同じものを二回変形させられない、のは知ってた! でも、ほぼノーコストで砲台ぶっ壊せるってウソだろ!?)


 砲台を増やせば増やすほど、制圧できる面積は広くなる。砲台同士での反射や、合体によるパワーアップも見越して、ライブルはどんどん砲台を作っていった。本体の身軽さもあって、かなりの速さで戦況は傾いていたはずだった。


「ふふ。『だぼパ』がいくらクソゲーでも、遊ぶ人が大勢いたよね。どうしてかわかる?」

「え、有名だからじゃあ……?」

「私は配信者だから、それもあるけど」


 またひとつ、轟音を立てて砲台が崩れ落ちた。


「ちゃんと遊べるから、だよ」


 漆黒が舞う。


 重々しさよりもかわいらしさが勝つようになったラヴィグナは、そして巨剣を手にした。


「くっ!」

「銃じゃ私は倒せないよ。ね?」


 ほとんどフルオートにも思えるほどの速度で吐き出される弾丸は、しかし剣の腹ですべて止められていた。これこそが「面積の広い武器を持ったキャラが強い」というセオリーの証左である。クソ調整によって、武器へのダメージは本体とまったく関係がない……データの流用で、そのとんでもない仕様は格闘ゲームにも流れ着いていた。


 どれほど打ち合おうが武器は破壊不能、かつ体へのダメージはいっさいない。RPGというていで許されていた仕様は、格ゲーではとうてい許されるものではなかった。


「じゃあ私、友達待ってるから」

「どわーっ!?」


 砲台ごと叩き切られたライブルは、一瞬で退場した。

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