64話
共振によって結晶構造が変化する「ナートサヴォーツ」は、振動を受けるたびに膨張する。きわめて反応性が高い元素が複数種類集まった結果として安定しているが、特定の周波数の音波を浴びることで、主成分のプロジウムが急激な相転移を起こし始める。そうなれば、崩壊した結晶構造が見かけ上の異常な膨張を始め、反応が進むと半気化爆弾として衝撃波と破片をばら撒き、爆縮をも引き起こす――天然の爆薬と称される所以である。
ところが、これほど凶悪な設定を持ちながら、ナートサヴォーツの力を宿したキラメキナイト「ワンガイザー」は弱い。敵となる戦闘員三種類、そして強敵二種類は、いずれも素早く爆発の効果圏内から逃げてしまうからである。
(攻略には使えないんだよなァ、これが。結局有名どころに逃げちゃったわけで)
自分はごく一般的なゲーマーだと自覚している「はもつ」は、『だぼパ』をクリアしているが……いわゆる強キャラ使いで、隅々まで遊び尽くしてはいない。理由は単純で、あまりにも難しすぎたからである。
鬼畜ゲーを特定武器・特定キャラで攻略する縛りプレイは、この現代でも人気のあるコンテンツだ。しかしながら、爆発で物理的に吹き飛んだところでノックバックもひるみもしない敵は、「複数の手順が必要な爆弾の設置」という能力とは極端に相性が悪い。
(そういう意味じゃ、『バトルバース』もコピペ以上の価値はある。内部データの流用だろうがなんだろうが、
すさまじく動きのいい相手は、はもつの投げた結晶を鎖で弾いた。鋭角のバイザーが捉える映像に、きわめて鮮やかな紅がぱっと散る。この紅は、起爆できるナートサヴォーツを示している――仕掛けは上々、はもつは鎖をぬらりと避けた。
ワンガイザーは、爆弾以外には低威力の音波攻撃と拳足しか持ちえない。それは相手も同じことで、初速さえ殺いでしまえば鎖の威力も大したものではなかった。ダメージ覚悟で突っ込み、いくらかのジャブを見舞う。
「どうした、クリアしたんじゃなかったのか?」
「冗談きついなぁ、この広いマップなのにさ……!」
紅白の鎖使い「アンディロア」の脅威は、単純な打撃ではない。宝石の力という定義がもはや何の意味も持たないことはほとんど前提として、「ケヴミコート」の主成分はダークマターである。
(三次元機動……それも、何もない空中を足掛かりにしての移動! ゲージを溜めさせたら終わりだな)
時間経過や鎖でのダメージで、彼は無にダークマターを凝結させる力を蓄積する。足掛かりを作り出して〈アンカーチェイン〉を打ち込み、大ジャンプや超高速移動を行うのが定石だ。無論それ以外の利用法もあるが、より警戒すべきはゲージ技よりも格闘だった。
まるでボクシングのように鋭いジャブが交わされ、しかし揺らぐような動きや異様な傾きで互いの攻撃が逸れている。体幹というものをまるで意識していない、VRならではの異常な体術であった。
「やるな! こりゃいい」
「つかめてきた……」
鋭く伸びた膝蹴りを、横へずれて逃げる……しかし跳躍と同時に回し蹴りを放ったアンディロアの足の鎖が、はもつの動きをそのままに追随した。ビシリとクリーンヒットを出した彼は止まらず、片腕のみで着地したかと思うと上段へ蹴りを見舞う。
わずかに砕けた装甲が、手足の鎖すべてに付着した。
「リアル格闘って感じじゃないが、すごいな。ただ」
「ッ!」
すべての結晶を瞬時に起爆する〈アウェイクニング・サウンド〉が突き抜ける。お膳立てとしての最低威力、耳にもさして響かないそれは、蒼炎の大輪を咲かせた。
「鎖の威力、据え置きなんだよ」
ごろごろと転がる紅白の戦士に、ほんのりと黄色みを帯びた結晶の戦士は言った。
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