63話

 月面。


 ひとことで説明するのならば、その言葉がもっともふさわしいのであろう「地表」マップに、ふたりの戦士が降り立つ。前作では「虚無すぎる」として大不評であったマップだが、格闘ゲームである本作では「真正面から戦える」として好評だ。


「ワンガイザーか……」

「アンディロア、ねえ」


 異常な難易度の前作に登場し、クリアは絶望的とされたキャラが複数存在する。此度の戦いに駆り出されたふたりは、どちらも“そう”であるとされた、テクニカルなキャラだった。


 であれば、訊くべきことはひとつ。


「「クリアできたか?」」


 とにかく素早く攻撃できること、ある程度の自己回復力、初期装備の大きさ――ゲームクリアに必須とされた要素のすべてがないキャラは、そう多くない。自動生成されたキャラクターの性能をRPG向けに調整できていない、ここも不評だったポイントだ。しかしながら、格闘ゲームである本作では違う。


 鎖使いと爆弾使いは、しばし睨み合って互いの答えを口にした。


「したよ、もちろん」

「マジかよ、俺は無理だったけど。ガチ帰還兵と戦えるの、初めてかもしれん」

「全キャラとまでは行かないけど、そこそこやったよ」

「いいね! 持ちキャラじゃなさそうだけど、いいのか?」


 だいじょうぶ、と答えた鎖使い「アンディロア」は、手を横に突き出して鎖を振った。もう一度降って地面を打ち、すこし笑う。


「そっちは爆弾魔だったっけ」

「かなりやり込んだつもりだよ。帰還兵を退屈させなきゃいいんだけど」

「胸借りるよ、本命といつやるかちょっとわかんなくて」

「ハッ、前座か! 存分にあっためようか、ちょうど寒々しいマップだから」


 コン、と鳴らした腕の装甲からいくつものトゲが突き出す。


「アゲて行ってくれよな!」

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