59話

「ちょっと解散して、お互い鍛え直そう」

「ええ。私も同じことを考えていました」


 近場の出力ポイントが噴水だったからか、二人並んで座ることになってしまった。初期装備のフィルムに多かったぴっちりスーツもなかなかだが、レオタードの少女がふたりという絵面はそこからもさらに浮いていた。


「クエストもこなさなきゃいけないけど……ステータスで勝ってても、負けてたかもしれない。ヤバい相手だった」

「レアモンスターでもと思っていましたけど、勝てませんでしたね」


 おそらく、属性相性もあるのだろう。紙はもともと赤・青属性に弱いと考えると、緑属性を主体にしていた俺、そして紫属性が主力のピュリィは、どちらも相手に刺さらない。そういうものを抜きにしたところで負けているので、意味のない仮定だが。


 速度で負け、有利な技があっても負けていて、どうにも言い訳が立たない。ライヴギアをまともに使えるようにするのは当然として、純粋な技量も鍛える必要がありそうだ。


 そんなことを考えていると、見知った顔が通りかかった。


「あれ、ザイルさん?」

「視聴者ネキかな? 見ない顔だけど……」

「私です、ザクロです」

「なにその服装、罰ゲームか?」


 いえ別に、というと「俺がおかしいのかな……」と首をひねっている。


「お兄ちゃんのお友達? 視聴者ネキは知ってるかもだけど、私です、「ローペ」です!!」

「やっぱり! 配信観てます」

「TSしちゃっても分かるなんて、さすがだなぁー」


 上等なシャツにサスペンダーで吊ったハーフパンツ、少女がちょっとした男装をしたかのような姿――だけど、どんと突き出た胸もむっちりした太ももも、明らかに少年のそれではない。おさげにベレー帽というおしゃれさんは、胸に手を当てて一礼した。


「サムライみたいな人って聞いてたのに、だいぶ変態さんじゃないですか? 三十人相手にして勝ったとか……」

「隣の友達がね……」


 仮想空間で着る服は、ほとんど体感覚としての違和感がないし、何より着る手間がない。たとえばウェディングドレスなんて、専門の人の協力がないと着られないだろうけど、ボタンひとつで花束まで出現するのがVRだ。腰骨より高いところまで切れ込んでいるとか、肌に密着しているはずなのに胸元が開いているとか、何かしら変なところもすっ飛ばしてしまうので、違和感も薄れやすい。


 肌に当たる風も再現するとはよく言われるが、だからといって順々に装着されたりはしないし、食い込みが擦れて痛いところまでは行かない。ほぼ生足にリボン巻いただけ、フリルでごまかしたハイレグなんていうのも、着ている本人としてはそこまで……見た目以外にヤバいところはほぼない。


「で、何の話をしてたんだ? 目隠しで戦えるかって話?」

「これ、ゴーグルの一種ですから。そうじゃなくて、強敵に負けたって話です」

「ザクロさんが、か。火力ならそこそこあるけど」

「この人そんなに強いの、お兄ちゃん?」

「いやマジで強いよ、完封じゃなくてもたぶん負けてる」

「技量面の話なんです。お二人の身のこなし、かなりの腕前とお見受けしますけれど」


 痴女がお嬢様みたいな口調でしゃべり始めたからか、二人はやや困惑していた。初見だとこういう反応にもなるだろうな、とちょっと目を逸らす。


「そこそこだよ。ゲーム配信やってる身としては、スーパープレイ系じゃないのがアレだけど……妹の方が上手いかな」

「上手いです」


 ドヤ顔で胸を張ったローペは、「じゃあ野試合でもしますか」と笑う。


「ちょっと自信ありますよ。まだ見ぬ強者と別ゲーで出会うの、浪漫じゃないですか!」

「ちょっと待て、レベル差あるからダメだって。格ゲーに呼ぶとかさ」

「あ、いいね!」

「少しはやってますけど、最近はあんまり……」


 えー、とローペは露骨にがっかりしていた。


「えっと、キラナイとかなら……?」

「「帰還兵!?」」


 兄妹揃って目をかっ開いた二人は、“称号”を口にした。


「配信見てたなら分かるかもですけど、私は「ロープ」って名前でやってるので。いつにしますか?」

「午後でいいですか? そろそろお昼ですし」

「りょーかい。存分にやり合いましょうね!」

「はい」

「いいお相手ができましたね」


 思わぬところで、意外なつながりができた。

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