32話
とっさにライヴギアを変形して、〈紅葉落とし〉で骨の板を叩き落とす。
「やっぱり壊れるか……!」
レベルは上がってコアレベルも上昇し、ライヴギア自体が強くなっているように思えていたのだが……特定の物体を既定の形に組み上げるだけで、強度の底上げには限界がある。もともと捨てる予定だった「仕損粗紙」は、半紙からプラスチック並みに強化されるものの、それ以上にはなれない。
すぐさま〈クイックチェンジ〉で入れ替えたが、二枚、三枚と続いて板が飛んできた。
「こういうことか。確かに難しいな」
「物量に対抗できないと、倒せないんです」
一枚目を叩き落とし、壊れたライブギアを組み替えながらバク宙で二枚目をかわす。追尾性能は低いようで、空中での角度変更はなかった。しかし、まともに殴り合うことはできないし、殴り合ってもこっちが負ける。
そして、いくつも飛んでいった板が、それぞれの場所から魔法を放つ。
「って、遠距離で飛ばしてるのに魔法……!?」
負けるわけだ、と痛感する――〈調弦の型〉から撃ちだした紅弦で魔法を防ぐが、いくつかは落としきれずに回避する羽目になった。
いわゆる「赤床」、攻撃予測地点の表示は、VRゲームでもそれなりに取り入れられている。見えない場所から飛んでくる攻撃は、単純に強い敵よりも不評が出やすいからだ。不意打ちしてくる敵がいる場所はある程度決められていて、近くの町や村で警告・対策法も聞ける。視野の外を攻められる、なんてことはほとんどない――特殊な対処法が必要だったり、最初から倒させる気がなかったりする敵以外は。
数十枚飛ばせて物理・魔法を両方こなせるビットだけでも、反則というほかないほど強い気がするのだが……かなり強かった〈ツインヴァイパー〉と同等以上に渡り合う性能は、現段階のすべてのプレイヤーを上回るのではないかと思えるほどだった。ここまでの強敵は、あのイカ以外には思い当たらない。
「どうするんだ、これ!?」
「とくに方法はありません!」
耳を疑うような言葉が聞こえた。
魔法はギリギリ対処できるとなれば、あの板を〈割鉈の型〉が破損しないように落とすのが急務だ。「クリティカルを弱点にクリーンヒットさせる」ことは、今までは比較的簡単だったが、今回は違う。
単純な速さだけで言えば対処は可能で、組み換えのクールタイムである3秒もやり過ごせている。しかし、紙の耐久度が低いという根本的な問題は変わらず、替えが大量にあるというアドバンテージも消え入りつつある。
「とにかくやってみる。試行回数はやたら稼げるし」
「ええ、お願いします!」
マイナスを捉えすぎてもいけない……紙のライヴギア、そして刀は、最大効率で敵の弱点を割り出せると考えることもできる。破損するかしないかの指標、そして短いクールタイムは、たくさんいろんなことを試すいい機会になる。
「ガァウウ……」
攻撃よりも防御を敵視するタイプの敵らしく、NPLはさらに多くの板をこちらへ飛ばしてきた。隙ができた瞬間に骨蛇はもやを吐きかけ、デバフを山盛りにしている。最初の直線軌道を読み、横薙ぎに切り捨てた。壊れた被覆を入れ替え、続いた板にやや遅れ気味の袈裟切りを浴びせる――
「っ、壊れてない!」
奇妙な引っ掛かりと、それを押し込んだ切断。エネルギーが抜けた板はそのまま墜落し、コントロールを離れたようだった。真ん中あたりから切り込んだように思えたのだが、不思議なほどきれいに切れている。
後ろに回り込んだ板の魔法を〈啾々たる結び〉で弾き落として、消滅していく板をどうにか観察する。
「ピュリィ、何か見えないか?」
「板の表面に、凸凹があるんじゃないでしょうか?」
「そうか、そこの角度に……」
並行にただ当てて切るためには、すさまじい切れ味が必要になる。でもなければ、刃筋を立てる……強度の低い部分へ刃を当てる、という小技を使わなければならない。あるいは斜めに切り込んで、押す力で切るべきだろうか。
「もう一回だ!」
「ガァアアア!!」
応えるように、浮き上がった板が殺到した。まずは物理で続いて魔法、というやり方を変えて、敵は火球や水球、風刃を十以上も連ねて放つ。使いつくす勢いで紅弦をいくつも放ち、手からも結界テープを出して、魔法を防ぎきる。
迫ってきた板の表面にある凹凸は、複雑な陰影――彫り込まれた文字が消えかけたものに見えた。切り込むきっかけとしては充分、陰影の角に〈一刀隼風〉が入り込む。ズンという重い音がして、骨は切断された。
「これだ、表面に彫ってある文字! ここなら切れる!」
「こんな隙でいいんですか!?」
刀のスキルレベルが上がっていたおかげで、新技も出てきている。茜色の袈裟切り〈紅葉落とし〉を、縦に並んだ線に叩きこむ。そして青い光をまとった〈突渦蒼莱〉をいちばん深い彫り込みに突き入れた。壊れた板が地面にガラガラと墜落し、後ろへ抜けていった板の放った魔法も叩き落とす。
「これで行ける。もう大丈夫だ」
「一個ずつで……。こちらも削ります」
少なくなっていく板は、骨のドラゴンの全身を次第に露わにしつつあった。表面の金属光沢は手足や肋骨でも同じだが、胴体の内側にある風船のようなものは、奇妙な赤の輝きを帯びていた。そして、風船はわずかに変色する。
「なんだ、今の」
「モードチェンジです。詳しい情報は出ていませんが……」
そして、竜は変形し始めた。
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