31話
ライヴギアの形は千差万別で、種類ごとの向き不向きこそあるものの、だいたいどんなことでもできる。惑星探査の補助アイテムとして、ある程度まで万能なのだろう。とはいえ、ピュリィのそれはあまりに無法というか、強すぎた。
「ふつうなら骨、って……こういうことかぁ」
「一通り触れた人なら、そう考えるのが自然です」
考えてみれば、こっちがログインした時間にいつでもいるなんて、とんだド廃人だ。何種類ものキャラを作って育てるだけなら、ゲーマーにはよくある話だ。しかし、ベータテストの期間中に全部やって使用感を確かめているとなると、かなり変わってくる。
「キャラクリ中に触った骨って、大剣だった気がするけど」
「ああいうのもあるだけで、できることはこっちが主体なんです。本体は弱いんですけど、おつりが倍で返ってくるくらい強いので」
ピュリィの使う「ツインヴァイパー」は、攻撃力を下げる毒ガス、噛みつきや尻尾打ちなどの技を使う、ほぼテイムモンスターだった。ライヴギアである都合上、どこのゲームでも設定されているであろうエサやなつき具合といったパラメータもない。装備としての耐久値もかなり高めで、弱点はなさそうに見えた。
「キャラクリで言ってた「干渉を受けやすい」っていうのは、どういうことなんだ?」
「あんまり言いたくなかったんですが……骨は、コアを持っている必要があるんです。コアからの信号を受信して動くので、乗っ取られる危険性もあったり」
「それ、かなり致命的じゃないか?」
聞く限り、強さの代償としてもやりすぎに思えたのだが、コントローラーにあたるコアがどこにあるのか、見ていてもさっぱり分からなかった。
「隠し方はいろいろありますから……。本題に移りましょう、ね?」
「ああ。これは本気で試さないとな!」
白を帯びた花紫に、房になった花々をちりばめた、どちらかといえば西洋的なデザインの布地。動くと揺れる袖はふわりと広がっていて、ほとんど振袖のようだった。ミニスカートのようにすこし広がっている裾、ギリギリまで絶対領域を狭くしたニーハイソックス――総合して考えると、俺たちの知っている和服の流れを汲んでいるわけではなくて、のちのちに資料から再現された別物のようだった。
ポニーテールを解いて、平安の女性のように背中でくくった髪へと変更する。
「ふふっ、とっても可愛いですよ」
「ありがとう。見た目を変えるなら、こっちも大事にしなくちゃ」
手に〈調弦の型〉を持って、構える。
「言ってたモンスターって、ここでよかったっけ?」
「ええ。「NPL」、サナリさんのクエストで思うところがあったんです」
たとえ「ノンパーソナライズド・ライヴギア」という名前だけ見たとしても、この世界の秘密に近付けるかもと思うに違いないのだが……プレイヤーに分かる範囲では「配布される道具」に過ぎないそれは、なぜかレアモンスターとして猛威を振るっている。
「シルバークラウンなんですが、攻撃が激しくて小さくて。体感ですが、昨日の将軍より強いと思います」
「いろいろ考察がはかどるなぁ。動力源が何なのかとか、五種類のうちでモードチェンジできるのかとか」
「私と同じ骨のはずですが……別のスキルも持っているようです」
「ますます面白いな」
俺が紙を使っているから〈符術〉を使えたのか、というと恐らくノーだ。ならば、誰にでも習得の可能性はある汎用スキルは、モンスターが持っていても不思議ではない。同じ特技を持ったモンスターとも戦ってみたいな、と思った矢先、それは姿を現した。
「骨、っていうか……甲殻? ゾンビだろ、これ」
「本体のドラゴンと、ボード型のビットです。どちらも遠距離攻撃を持っているので、正直ふたりでも厳しいでしょうか」
全身に無理やり板を張り付けた、鎧の竜のように見えた。金属光沢を帯びて見えるが、表面の板は間違いなく骨質のそれだ。ステゴサウルスの間違った復元図のような、あるいは「爬虫類の表皮はうろこで覆われている」という情報を強調しすぎたお絵描きのような、かなり無理のある絵面だった。
「いや、そういうのって楽しそうだしさ。俺を選んでくれた理由も分かった」
「理解が早くて助かります。あなたのライヴギア、こういうことが得意そうだなと思ったのと……同じクエストを受けている仲ですので」
「新しいことも……あれっ」
「どうしたんですか?」
意気揚々と〈秘奥珠懐〉を取り出したのだが、[認識を持たない敵には使えません]という小さなテロップが出てきた。
「ダメか。テストできそうだったのに……」
「今あるもので、ということですね」
様子見が敵視に変わったのか、眼窩に燃える緋色が輝きを増した。
「ガァアアア!!」
「どうにか、初手をしのいでください!」
珍しく焦った声のピュリィは、双頭の骨蛇を呼び出す。NPLの背中から浮き上がった骨の板が、何色もの光をまとう。
「遠距離……たしかにそうだけど!」
紅弦と魔法がぶつかり合い、爆発の花を咲かせた。
「避けて!!」
爆炎の向こうから、骨の板そのものが突っ込んできた。
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