20話

 するりと走った刃に沿うように、刀でさらりと薙ぎ払う。速さは互角、読み合いに負ければ負けるくらいに思えるが……仲間が何人もいれば、フォローはいくらでも利く。盾を持った大柄な男性にほぼ全裸の錫児さん、骨の竜を従えた少女と紙を使う俺とで、四人いる。


「防御は任せろ! わりと吹っ飛ぶけど!」

「見ていたよ。だいじょうぶ、僕も火力だけはあるんだ」


 攻撃が中途半端なところで止まり、その隙に〈一刀隼風〉を入れる。攻撃としても回避としても優秀なのだが、デバフとして使いやすい「永続的に緑属性のダメージアップ」はあまり意味がなさそうだった。


「スペルム・フラァーッシュ!!」

「〈オーラブレイズ〉」


 赤・青・緑・黄・紫の五属性があるが、やっていることから類推すると火水風に光と闇、といったところだろう。股間から出ているのは光なので黄属性、骨が吐き出したもやっぽいものは物理か紫だと考えて、盾を持っている人も防御系ばかりを使っている。


 いちおう緑・赤・紫と多彩な属性を使える俺だが、デバフを使うなら〈調弦の型〉の方が強いようだ。しかし、あちらではどうしても防御性能に不安が残る。


「ぶっつけ本番、やってみるか……!」


 錫児さんと骨の人、それに舞台の外から飛んできている攻撃でかなりの火力を稼いでいるため、正直俺がいなくても問題はない状態だった。どうやって攻撃を止めるか、行動を縛るかが問題なら、そっちに注力すべきだ。敵の斬撃や剣を飛ばす攻撃は、余波だけでもかなりの被害を出している。それを阻止する方法は、いま手の中にあった。


 大鉈と蛮刀の合いの子のような〈割鉈の型〉を組み替えて、紅梅の琵琶〈調弦の型〉へと変化させる。そしてすぐさま特技〈啾々たる結び〉を放ち、幾筋もの紅弦が剣技をゆるやかに止めた。


「ふむ。面白いね」

「こっちの方が、全体に貢献できそうですね」


 大人数で戦って報酬を分け合う形式なら、個人が強くても意味がない。大勢の攻撃が当たって火力を稼げている状態なので、人が多く生き残って、一人でも多く戦いを続けてくれる方が正解だ。


『imnarkuduthomeng krmikzmtiunr [Sold]hjnwomnzrtmer』


 かき鳴らすたびに細いバリアが出現し、斬撃が押しとどめられる。たった一枚のバリアならたやすく割れてしまうかもしれないが、細くて弾力のあるものを複数まとめて切ることはものすごく難しい。バターを切るのと髪の毛を切るくらい違うそれは、切れ味や腕力だけでどうにかなる問題ではない。


 少なくとも、刀にとってやりやすい環境ではない――攻撃の手が露骨に鈍ったことで、バフや回復を切らさないようにと奔走していた人たちも攻撃に加わり始めた。使い捨てていた剣の数もどんどんと減って、ボロボロの数本を使い回すようになっている。


「無から作り出すのではないようだね。数は最初から決まっているのか」

「だったら余裕だな! ラストスパートだろうが、強くならないんだから!」


 言った瞬間に、大盾の人は吹っ飛んだ。とっさに張った弦で受け止めて、地面に下ろす。


「悪いね、まだ軽いみたいだ」

「早く復帰を!」


 武器は減っているが、本体の鎧武者はまったく衰えていない。むしろ強くなっているようにさえ見えた。化け物じみたスピードで迫ってくる敵の攻撃を、瞬時に変形させた〈割鉈の型〉で受け止める。


「耐久値が……!」

「紙じゃ保たない、任せて!」


 もともと防御性能が弱い紙は、こういうことには致命的に向いていない。そこまで残っていなかった耐久値はどんどん削れ、盾の人と入れ替わってもらう前に被覆が壊れた。


『utkskkn skstyskybrrwknmykn』


 押し合いの膂力が弱まった瞬間に〈一刀隼風〉を入れて、ざりんという明らかに何かが壊れた音を聞いた。鎧武者は小さなうめき声のようなものを漏らし、バラバラと鎧のかけらがこぼれる。関節部や鎧の範囲外ではない、明確な弱点に当たったようだった。


「なんだい今のは?」

「弱点――あっ、あれです、錆びたところ!」


 ボロボロなのは地面から突き出した剣だけだと思っていたのだが、光でごまかしていただけで、本体にも少しずつ傷があった。傷や錆びを隠しきれていない場所が、ゆっくりと見えてきている。


「武器の性能を引き出してモードチェンジするが、肝心の武器がないと……というわけか。これだけ遠近自在に攻撃できるのも納得がいく」


 攻撃は激しいが、時間経過とともに性能が落ちていく。だからこそ、短期決戦を狙えるようにと攻撃面をでたらめに盛りまくったのだろう。思ったよりも優秀なプレイヤーが最初から揃っていて、あまり意味がなかったようだ。


 広がったひびにいくつもの攻撃が命中し、敵は動きを止める。


『mhykrmdk htgkbuwtksnm imnrbrkidkr』


 ほんのわずかな微笑みのような音を静かに響かせて、鎧武者は膝をついた。


『現代言語への適応完了。命尽きるときだというのに、器用には振る舞えぬものだな』

「しゃべった!?」


 鎧武者は、ちょうど心臓にあたる部分からコアのようなものを掴み出す。そして、ばら撒くようにざあっと広げて、アイテムを配布した。


『アクロス・プログラムの申し子……ソルドよ、貴君らの健闘を祈る。この私を倒したことで得たものは、貴君らの探索の助けとなるはず。礎は築いた、道は貴君らの行くままにできることだろう』


 鎧がガラガラと崩れて、青い炎で焼かれる灰の山になっていく。



[ロストエイジ・サウザンドショーグン(GC)の討伐を完了

「ブレイブ:LATS」を獲得

称号「錆斬り」を獲得]



 そうして、ボス戦は終わった。

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