4話

 ファンタジー世界の城壁をベースにしたのだろうか、ダムか砦かというくらいガッチガチに作られた城門をくぐる。そこらのゲームでありがちな「街の近くに弱いモンスターがうろついている」状態を、住民感情込みで作るとこうなるのだろう。


「さてと。刀っぽい特技もあるし、さくっとやりたいな」


 着流しの浪人というスタイルなら、武器も刀、特技も斬撃主体でやってみたいものだ。初期技として〈一刀隼風いっとうはやかぜ〉〈紅葉落もみじおとし〉〈四葬しそう無明鴉むみょうがらす〉という三つが揃っている。ひとまずは、これを使いこなすところからだろう。


 歩いていると、提灯に尻尾をつけたようなモンスターがふよふよ浮いていた。和風というよりはむしろ機械的で、ランタンにアンテナを付けたようにも見える。初期位置のすぐそばにいるモンスターなので、そう強くはないはずだ。


「はっ!」


 初期技のひとつ、勢いよく切り付ける〈一刀隼風〉は敵を瞬殺した――


[被覆「仕損粗紙」が破損・消滅しました]

「えぇっ!?」


 バスンと威勢のいい音がして一撃で倒せたのだが、武器が壊れた。バトルログを参照して何か問題点がないか、と探ってみたのだが、単純に「特技使用、ダメージいくつ」「耐久値減少、規定値超過」くらいしか書かれていない。


「当て方の問題かな? あと千回は試せるけど」


 最初からストックされていた分と合わせて、ぜんぶで千と十回分ある。ウィンドウからライヴギアの被覆をさっと入れ替えて、割鉈は完全な状態を取り戻した。


「ヘルプとかTIPSとか、なにかないかな……? いくら安くても、これはさすがにマズいや……」


 後続プレイヤーのことも考えて、紙の値段交渉をしたつもりだった。しかし、特技を一回使っただけで毎度破損していたのでは、どこまで費用を抑えようと無駄だ。戦闘中はライヴギアをカスタムできない、なんてことになったら敵が二体出てきただけで詰む。


 ウィンドウの「ヘルプ」をスクロールしながら、次の敵を探す。練習台にするにしても、まずは弱い敵からだ。リリース初日だからか、ほかのプレイヤーはそこそこいるようだが、さっさとこの辺りは通り過ぎていく。大きめの石に腰を落ち着けて、俺は情報を細かく見ていくことにした。


「なになに。「弱点攻撃を行うと、耐久値の減少を抑えられます」……か」


 クリティカルヒットを出す、弱点を攻撃する、攻撃回数の少ない特技を使う、特技やスキルの熟練度や補正を活用する――などなど。内部から分かる情報だけを見れば、実現可能なラインに見える。クリティカルヒットは「強化されていない箇所へのクリーンヒット」という定義らしく、こちらも註釈が必要そうだ。


 武器を使わない勝利のことも考えたが……こちらは、そもそも違うジャンルであるような気がする。武器の扱いに慣れたいのに武器を使わない、なんて支離滅裂が過ぎる。要するに何をするのかというと、未強化状態の敵の弱点へ、最大まで強化した一撃をクリーンヒットさせればいいのだ。


「あ、いた。弱点、……ってどこに」


 しっぽランタンがまたもや現れたが、どこが弱点なのかはまったく分からない。アンテナかつなぎ目か、それとも内部の炎なのか。一体ずつ出てくるうちに検証を済ませないと、現状維持では何もできない。


 アンテナを狙って〈一刀隼風〉を発動した瞬間、手ごたえもなくアンテナが切断された。破損警告は出ていないため、もう一回は使える。大きな収穫だ。


 アンテナでは即死しない。特技のクールタイムは三秒、敵の撃ち出した小さな炎をさっと避けて、次の場所を狙う。さっき攻撃したのはつなぎ目だったので、今度は内側に灯っている炎へと攻撃を仕掛ける。


 ほとんど手ごたえもなく滑り込んだ割鉈は、ごく軽い慣性だけを残して止まった。


「壊れてない。耐久度、半分も残ってるのか……やった!」


 しっぽランタン二体なら、一回の交換で倒せることが分かった。効率化を進めれば、誰よりも低コストで戦えるはず――最初に浮かべていた構想を、なんとしてでも実行してみたい。そういう挑戦が、ゲームをやっていて何よりも面白いところだ。


 三匹、四匹と敵を一撃で倒しながら、壊れるまで交換しないスリルを楽しんでいると、ふいにレベルが上がった。火球をさっと避けて十二体目の敵を倒し、道のわきに積まれたがれきあたりでウィンドウを開く。歩きながら端末を見ていると危ない、と学校でもさんざん注意されたが、VRゲームの中でも同じである。


「経験値少ないんだなぁ、こいつ……」


 スタート地点のすぐそばにいる雑魚なので、当然といえば当然だった。スキルの熟練度は多少増えているが、それ以上に増えたものはないようだ。「減らさない」ことに重点を置いて戦っているとはいえ、増えないのもつらい。


 レベルがひとつ上がっただけだと、ステータスもほとんど伸びず、何も覚えていないようだった。モンスターを相手取る基礎はできたと考えると、狩り場を変えるのが正解なのだろうか。さっきからプレイヤーが通過していくので、ここは初心者に向いている狩り場ではないか、メインストリームから外れた場所らしい。


「行ってみるか、初心者向けのいい狩り場……」


 動きは覚えたので、別の敵にも挑戦してみるべきだろう。たった一種類の敵を極めても、強くなったことにはならない。まだまだ耐久値を残した割鉈を腰に差して、俺は道行く人々に続くことにした。

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