プロローグ
それはある年の7月8日のことだった。
その日は見渡す限り陽光を遮る雲が見えない、きれいな快晴。
繁閑と様々な人が暑さを感じつつ過ごしていた。
そんな暑くも心地の良い日の一角、右方区と中央区の堺に位置するこの広場でおきた惨劇。
この光景を目の辺りにした者は言葉は違えど皆口を揃えてこう言った。
理解できなかった、と。
何せそれは一瞬の出来事。なんの共通点も無い二十人もの人が血しぶきを上げて倒れ、血の水たまりを作っていたのだ。
その中心には、この異様な光景に立てなくなった少年が、恐怖に染まった光のない目をして呆然と虚空に何かを見ていた────。
後にその不可解性と異様さから、同時刻無差別不可能殺人などと名を与えられ一躍メディアを総なめしてしまう程に話題を呼んだこの事件。
流石というべきか金になると分かるものには行動が早い、連日どのメディアでも報道を重ね、遺族の気も知らず家に押し掛けては取材を
それから数ヶ月、このコンテンツから搾り滓すら出なくなり飽きられるまで、中心にいた少年は消息がつかめず、公に出ることは無かった。
次第にそのことについて口にすることはタブーと暗黙の了解になっていき、最終的には誰もそれらしき単語すらちらつかせる事が無くなった。
そんな中、何を血迷ったのかどこぞのバラエティ番組がこの惨劇の立証実験を始めだした。
「これは不可能なんかじゃない」そう証明できれば金になるとでも考えたのだろうか?
一週目......二週目............四週目───────
数カ月にわたって行われたこの実験、だがついに望んだ答えは出なかった。
曰く、少なくとも現代の技術では再現不可能であり、分かったことと言えば人為的に起こす事はでき無いと、ただそれだけ。
その結果に、資金は底をつき始め次第に匙を投げる研究者たち.........。
───さぞ好奇心を掻き立てた事だろう。
番組コーナーが打ち切られてもなおネットを中心に話題が絶えることは無かった。次第により面白い形へと変わり、まことしやかな噂話、それを題材とした娯楽へと変化していった。
たった一つの事件が分岐に分岐を重ね、何時しかベースとなる根と葉はある、だが原型の無くなった虚構へと移り変り消化されていった。
嗚呼──なんて遺憾なことか。
───不思議なことに僅か一年足らずで、この事件は
そんな、早フィクションに成り果て、肥大に肥大を重ねたこの事件。いくつもの解釈と結論が出され、その中には真実を語るものがあった。
それはネット掲示板にあった創作物、投稿者本人もそれを閲覧した人々も単なる『娯楽』としてしか見ていなかったことだろう。
あまりに非現実なネタとして
「何言ってンだこの中二病ww」
などとスレッドやコメントをつけられ消化されていった。
それこそアニメや漫画などに登場する超常的、オカルト的力の存在が登場するネットロアだ。
そんなものは存在しないと決めつけてしまうのは簡単だろう。確かに、今までの歴史や常識を見てもそんな物の話を耳にすることも無ければ、教科書に乗ることも無かった。
だが、そんな力が本当に実在するのであれば、存在を隠されても何ら不思議な事は無い。そうは思わないだろうか?
焦がれ憧れた者もいるだろう? その言葉を口にするだけで時には、ファンタジーの中だけだと、現実に生きろと、信じ求めるだけで頭がおかしいんじゃないか? と、あまつさえ白い目で見られることだってあった『異能力』と言う物に。
それらはいつの世も、その時代にあった形に変化、進化して確かに存在していた。それらは時には怪異や妖怪のたぐいと呼ばれる事もあれば、神の子と崇められ一つの宗教を作るほどだ。知る人ぞ知る、時代を作った偉人の中にだっていたのだ。
それを聞いて、存在を知ったうえでどう思った?
興奮したか? それとも恐怖を覚えたか? それとも「そんなのはもう人間じゃない」と迫害でもするか?
何にせよ、だ。
嗚呼──子供の頃に夢に見たことがあっただろう? アニメや特撮などで見た『特殊能力』に、子供心も中二心もくすぐる『魔法』などに。
「信じろ」とそう言われて「ハイそうですか」と言うことは簡単だろう。
だが、良くて半信半疑、うわぁ変な人に絡まれた。そう思うのがポピュラーな反応。
この時点で嘘だと断じてしまうのもまた一興。
しかしながら、少しでも興味が湧いたのであれば歓迎しよう!
これこそが現実。
『願望』が叶った先の世界。
戦争に足を踏み入れたものの行く末である────。
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