掲示板回 その盛り上がりの裏側で

”オリガくんがサカウラと決闘すると聞いて”


”今北産業”


”オリガくん、探索者協会のサカウラに絡ませれる。

 ナターシャを守り、決闘を受け入れる。

 みんなをメスにする”


”新しくTSものが始まったと聞いて”


”現場で一部始終を見ていた剣士だけど、いや、格好良かったよ”


”ナターシャの引き立て役ご苦労様でした”


”心の傷に塩を塗り込むのやめろください!!”


”あまりにカッコいい台詞で笑ったwwww”


”……しかし。実際にかっこよかった。アレは濡れる”


”でもさぁ、勝ち目あるの?”



 誰もが気にしていたけれど、敢えて口にしなかった話題に一人が触れた瞬間スレの勢いが一時的にだが、止まる。

 前衛と後衛が一対一で戦って勝てる見込みなどはない。両者の間によほど実力差がなければ成立することはなかった。

 そうでなければ、一対一で探索者が戦うアリーナで前衛人気が高まるなんてことにはならないだろう。


”でもオリガくんにはハイレベルな知名度補正ネームバリューがあるじゃん?”


”あー。しかしな。探索者同士の決闘では基本的には知名度補正ネームバリューを一時的に消失させる魔術が付与されるのよ”


”当然っちゃ当然だよね。知名度補正ネームバリューが認められるなら、知名度の高いやつが常に勝負に勝つことになる”


”悪いことじゃない。サカウラは落ちたりとはいえ、まだまだ人気のある配信者だ。有利不利で言うなら多少オリガくんに有利に働く……が”


”負けてほしくないなぁ……”


”うーん。とはいえ、普通に考えたら前衛と後衛が戦っても結果は見えてる”


”それを知らないはずがない、何か隠し玉や勝ち筋があるかもしれないな”


”どんな?”


”それが分かれば苦労はせんのだ……”



 どのみち、勝敗は一週間後に決まる。

 山田オリガとサカウラの配信チャンネルでもすでに告知が始まっている。

『ナチュラルボーンドスケベ美少年』こと山田オリガと、アリーナ新人王サカウラとの決闘イベントはネットメディアがあちこち騒ぎ立てるほどにホットな話題だ。


 みんなが焦れるような気持ちを抱え込む。

 状況からしてフロストリザードの件において配信者サカウラはクロだ。しかし明確な証拠がない。決闘という形でオリガくんが勝てばスカッとするが……現実的に考えると、前衛VS後衛の図式ではどっちが勝つかなど明らかで……悪が善を屈従させるストレス展開を予想し、みんなが自然ともやもやした気持ちを抱えていた時だった。


”こんにちわ、オリガくんの初回配信に引っ張られて、科学系チャンネルをやってた時代のアーカイブを全部見てきた”


”突然の猛者現る”


”数年分だからマジでワン〇ースのアニメ全部見るぐらいかかるだろ”


”面白かったからスイスイとイケた。大学を卒業したら魔道工学に進もうと思うんだ”


”おめー”


”おめー”


”オリガくんに少額でもいいからスパ茶してコメントしようぜ。自分の動画で興味を持ってくれたなら、製作者冥利に尽きるはずだ”


”スパ茶で思い出したけど。オリガくんまだ収益化通らないのかな?”


”あー。バズって伸びるのがめちゃくちゃ急激だったから審査中だろうと思ってたけど。確かに最初の雌顔でバズった時点で申請はしてるだろうし。さすがにもう収益化が認められてもおかしくないよな”


”坂浦長官が息子とトラブルになってるから嫌がらせで差し止めてたりして”


”……あー”


”いや、あの。冗談だよ?”


”どうかな。あんまりおもてに出てないけど。匿名の高ランク探索者スレだと坂浦長官に対しての罵倒とかすごいんだけど”


”だけど?”


”なんでか突然スレ削除されてるんだよねぇ”


”具体的にどう気に入らないのか質問しても、誰も答えてくれなかったし”


”口封じられてるとか”


”……………ごめん、言えないんだ”




”ところでな。あのあとオリガくんの言ってた『アリアドネ・ライフロープ』をちょっと検索してたんだわ”


”土着の冥府信仰がないから神殿を作りにくいアメリカのダンジョン探索者支援団体だったっけ?”


”アメリカは日本より貧困の差が激しくて、どうにか這い上がろうとダンジョンに挑む人が多いからな”


”遠回しの棄民とか計画的ジェノサイドとか言われてるけど、向こうも必死に頑張ってるんだよなぁ”


”それで……アリアドネってなんだっけ。どっかで聞いた気がするけど”


”ミノタウロスの迷宮に挑む英雄テセウスを生還させるため、糸玉を渡したクレタ島王族の名前だよ”


”ダンジョンに入り込む探索者をテセウス役とすれば、これほどふさわしい名前はないよな”


”そうそう。アメリカじゃ、日本みたいに神殿を作りにくいから転移系魔術がめちゃくちゃ発展してんだよ”


”でも転移系魔術って難易度高いだろ? 安全な地上からダンジョン内部の人をピンポイント転移させるなんて可能なのか?”


”できないとは言わない。めちゃくちゃ難しいけどな”


”ネックになるのは座標軸の測定だ。これが正確でないと効果がない”


”けれどもアリアドネ・ライフロープの『糸使い』は相手と糸で接続されてる。その先に転移させる相手がいるという概念的な理屈で座標軸をかなり特定しやすくなるんだ”


”日本でも有益じゃん、それ”


”ただ、日本は神社があるからなぁ。どっちを優先させるかというなら神殿のないアメリカだろう”


”ただ、アリアドネ・ライフロープ所属の糸使いは途中で脱落することが多いらしい”


”どうして?”


”糸で探索者と繋がってるんだけど、どうも相手とはある程度精神状態がリンクするらしいんだ。それこそ相手の興奮、緊張にはある程度影響を受ける。もちろん断末魔の恐怖感もな”


”それに加えて生存者の罪悪感、サバイバーズギルトで精神を病む人も多いらしい”


”確か糸使いを国外から人身売買同然に買い付けていたって噂もある”





 などと、どこか暗い話題が流れている中――




”で、魔道工学に関してオリガくんの話を見ていたんだけど。彼の動画で一つ非公開になってたのがあったって言ってたでしょ?”


”あー。あったあった。何かわかった?”


”多分だけど『クモヤギ』に関して話そうとしていたんじゃないかと思うな”


”ほぅ”


”山田オリガくん、ヤギとプレイする?”


”帰ってどうぞ”


”実際それはないやろ、しかしクモヤギ? どういう意味なんだ?”


”あー、そういうことね。なるほど理解した(わかってない)”


”あー、そういうことね。なるほど理解した(分かってる)”


”?????????!!!!!!!”


”知っているのか雷電!!”


”うん、実際察しはついた。ついたが……しかしこれは確かに公開せんほうがいい”


”どういうことなの……”


”世の中には他人に理解できない理由で人を害する奴がいるってことだよ”




 などと興味の沸く話題が時折会話の端々に昇るものの……異変の兆候は、誰かが気に留める暇もなく――雑多な情報の奔流に押し流されていくのであった。


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