【完結】ダンジョン配信者山田オリガくん、不本意なバズり方をする~ パワーアップのために諸肌さらしただけでわざとじゃないんです!性癖を破壊する意図なんかありません!!
第十九話 山田オリガくんの目の前でかわいそうな剣士が倒される!!
第十九話 山田オリガくんの目の前でかわいそうな剣士が倒される!!
ナターシャは強い。
回避バフを重ねて火力を増すという特性上、待ちが多くなりがちだが――こういう試合ではあまりに対戦相手に積極性が欠けると見做されると審判AIからも注意が送られる。
「でやあぁぁぁ!」
「ふぅん……」
ナターシャは避ける。避ける。避ける。一撃に二度避ける。
まるで自分の格好良さを気になる男の子に魅せるかのように動き回り、くるくると避け踊る。
手練れのボクサーが対戦相手の癖を見切るためだけに1ラウンド費やすように見に徹し、反撃のタイミングをうかがっていた。
「くそくそくそっ! カップルの引き立て役は嫌だァァァ!!」
「フフフ」
相手が憤怒の声をあげた。
対等の対戦相手ではなく、ナターシャを引き立てるだけの添え物扱いが悔しくて仕方ないのだろう。
相手も相応に修練を積んだ
だが、結局はナターシャの幾筋もの剣閃を浴び、一撃で打ち倒されてしまった。
「ぐわああああぁぁぁぁぁ末永くお幸せにぃぃぃぃ~~!!!」
「ありがと♪」
魔力的な力で作られた峰打ち非殺傷空間なため当然相手が傷つくことはない。
断末魔の台詞が具体的だったので多分オリガとナターシャのチャンネルの視聴者だったのだろう。ナターシャが倒れる彼に投げキスを放ち、周りの観客の何名かが倒れされた彼に敬礼したりする。引き立て役だけども祝福した彼に対する敬服であろうか。
「お疲れ様でした」
「うん。いい相手だったよ」
試合を終えれば次の試合まで少し休憩だ。
一応カップル配信の相方なのだし、オリガは彼女にタオルとドリンクを差し出す。二人は観戦できる位置に移動してから、一緒に腰かけた。
「ここはアリーナに参加する人も大勢いますねー」
「ああ、そうだね」
対人戦の腕前を磨くならここだ。
ただし対人戦ばかりかまけてダンジョンに潜らない探索者も結構それなりにいる。
まぁ気持ちはわかる。アリーナでの戦闘訓練では、相手の殺傷を『禁じる』類の魔術があるのだ。ここでならひどい痛みはあっても死に至ることはない。生死の境い目にあるダンジョンより実入りは少ないが、当然の事だろう。
「あのですね、ナターシャさん」
「うん、なんだい?」
「……以前サカウラさんと接触した際に仰っていた、犬を人質に取られたっていうのは?」
ナターシャは少し沈黙する。
これまで他人には話した事がないけど、少し人に聞いてほしかった。
「……ボクの両親は日本のパパとロシア人のママとの間に生まれたハーフなんだ」
それは分かる。純血の日本人離れした身長や体付きを見れば想像はつく。
「どっちも探索者だったけど、ある時パパとママはダンジョンから未帰還。そのあと、パパとママの友人で同じ探索者チームに属していた坂浦宗男長官の家に引き取られたんだよ。配信者のサカウラとはこれで10年近くの付き合いなんだ」
「仲が悪いようにお見受けしましたけど」
はぁ、と俯きながらナターシャは頷く。
「そうだね。……決して悪くはなかった。むしろ義理の姉弟としては関係は良好だった。
けど、その関係が崩れたのは……坂浦宗男長官のやってる探索者の新人王決定戦の時だったんだ。トーナメント、わかる?」
「ええ」
ダンジョン探索者の戦いは、見ごたえがある。彼らの戦いを一対一のアリーナという競技に落とし込み、テレビ局と提携して多大な収益を上げたのが坂浦宗男長官。そして配信者『サカウラ』の実父だ。
ただ……多大な収益を上げたやり手であるのは確かだが……アリーナの興行が大きくなればなるほど、ダンジョン探索に必須である罠と索敵の専門家であるローグや治癒魔法のエキスパートであるクレリックなど、そういう人に光が当たらなくなる事態を招いてしまっている。
金は儲かるがダンジョン探索者協会にとっては困った事態を引き起こした原因でもあった。
「……彼は自分の息子のサカウラを
新人王決定戦でサカウラを優勝させるために、どうも違法すれすれの事を続けてたみたいだ。それでもボクは彼の養女になって10年だ。きっとそんな事はない、決勝戦で正々堂々と、坂浦尊を破ればいい……そう思ってたのに……。
決勝戦で八百長試合をしろ、いう事を聞かなければ……本当のパパとママが連れてきてくれて、ボクと兄弟みたいに育った犬のムクに危害を加えるって脅されたんだ……」
残酷な話だ。
それはつまり坂浦宗男長官は……血の繋がった息子のためなら義理の娘を脅迫することさえ平気でやるという意味だ。父親と思っていた人の最悪の裏切りを受けたからこそ、ナターシャは彼らの家を出たのだろう。
オリガはおずおずと尋ねる。
「……ムクちゃんは、無事だったのでしょうか?」
「無事に帰ってきたよ。一年ほど前に老衰でパパとママのところに行ってる」
そして八百長に乗ったからこそ、サカウラは新人王の名声を得て。
名声を博する機会を失い、ナターシャはそれでもお色気舐めプ系の配信者としてなんとか上に上がろうと藻掻いていたのだろう。
ナターシャは、は~、と大きくため息を吐いた。
「なのにさぁ。ボクを陥れ、姑息な盤外戦術も駆使してフォロワー数800万を達成した大物配信者になりあがったくせに……あいつ、ボクがナニをしたわけでもないのに次第に廃れていったのさ。
ほんと……情けない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます