【完結】ダンジョン配信者山田オリガくん、不本意なバズり方をする~ パワーアップのために諸肌さらしただけでわざとじゃないんです!性癖を破壊する意図なんかありません!!
第十八話 山田オリガくん、すでに完成させていたりした!!
第十八話 山田オリガくん、すでに完成させていたりした!!
探索者は命をチップにダンジョンに潜り、そこで希少な物品を集めたりする職業だ。
今現在では社会的な知名度もあがり、人生の一発逆転を狙って挑むものも多い。
しかしダンジョンがこの世に現れた40年前ではヤクザな仕事として知られている。
そういった法整備は40年の時代を掛けて、少しずつ理想へと近づくようになっていった。
「困りましたねー」
「どうする? おにいちゃーん」
山田オリガはパソコンのキーボードをぱちぱちとタッチしながらぼやいた。
隣ではオリガの肩に妹のヒナが顎を載せている。
「配信当時は気にしていませんでしたが、ふむむ」
「腹立つよねー」
ダンジョン内でのドロップした品物は、年齢が18歳の成人になるまで拾って帰ることは禁止されている。
これはあちこちから「もったいない」と叫ばれる内容だが、仕方ない面もあった。
まずどうでもいい理由として年齢が15歳から17歳程度の若者が、ダンジョンのドロップ品で生計を立て始めると、議員や政治家が「政府は未成年が危険な場所に行くことを規制しておらん、けしからん!」と与党に文句を言いだすのだ。
そして過去の事例にもあったのだが、ドロップ品の回収を認めると子供がダンジョンに送り込まれ、親によって搾取されるきっかけになるかもしれない。
そしてダンジョンに送りこまれ、搾取されながらも生き残った子供が親に復讐した事例もある。
勿体ない、といって……これらの犯罪を見過ごすのもこれはこれで大いに問題であった。
さて。
今回のオリガの一件である。
問題になったのはダンジョン内部で遭遇した腕効きの探索者が向けて言った言葉。
未踏査階層の神殿建築に関する「オホーツク海のカニ漁船」レベルで大変だったアルバイト。
そこの報酬でオリガは希望通りダンジョンドロップの品物から「戦王の剣鎧」という最高級の全身鎧を報酬としてもらえた。
もちろん探索者協会もオリガが17歳と知っている。
しかし彼の「糸使い」の能力で、探索者を強化することができる。
彼がいるといないとでは探索効率に大きな差が出るから、結局は見て見ぬふりをすることで合意したのだ。
だが、その暗黙の了解を……雇われの探索者たちが破った。
証拠映像はばっちりと配信の形で残ってしまっている。うっかりものの探索者に心底迷惑を掛けられた形であった。
「でも、返却するとかももうできませんからねー」
「どうしよっか」
オリガとヒナの二人は首を傾げながら――自宅の中。
一般的な日本家屋の中に不釣り合い極まるサイバーチックな空間に目を向けた。
「あくまであのセリフは彼らの言いがかり、真偽を確かめる手段はありませんが」
「となると、この子を出せないし」
オリガとしてはそれは困る、困るのだ。
ただ地下のモンスターと渡り合えるほどに軽量でなおかつ頑丈な素材は、ダンジョンのドロップ品に頼るしかない。
そのためにアルバイトをしたのに。
むーん、と考え込んでいたヒナがいう。
「とりあえずこっちもお婆ちゃんに連絡して善後策を組んでもらうね」
「お願いしますね」
今回、こっちは馬鹿な配信者のフォロワー増加の目論見に巻き込まれ、正当な報酬として獲得したドロップを公の場で使う事が妨害されている。面倒なことはオリガの師匠、鳳の婆様にお任せするとして、オリガはゆっくりそれに近づいた。
一体の巨大な甲冑が鎮座している。
面頬を上げればスリットからはカメラアイが無機質な赤いひかりを発していた。
内部には重量のある躯体を支えるための強靭な
モンスターとの白兵戦を演じられるほどの演算力、反射速度を兼ね備えたCPUは未だに発明されていないため、心臓の位置には式神の霊符が備え付けられている。
「剣鎧童子、お前の出番はまだまだ先になりそうですよ」
応えるように、それは頭部のカメラアイから赤い光を滲ませた。
さて。次の日だった。
現在、人気が鰻登りのオリガとナターシャのコンビだが、毎日探索するわけではなかった。ある程度潜った後は休みを入れる。ただあまり長いこと休み過ぎると体が戦いの感覚を忘れる。だから、ある程度緊迫感のある実戦形式の試合をすることがあるのだ。
アリーナもまた、最初はそういう刃引きされた武具を用いて行う練習試合が目的だったはずだ。
だが戦いがあれば……それが人気のある探索者同士の試合であれば見たがる人もいる。見たがる人がいるなら商売にも繋がる。需要があるなら供給され、現在では探索者同士の戦いは大会という形の娯楽として消費されていた。
「あ、来てくれたんだね こっちだよ!」
ナターシャ=更級がにこやかに微笑みながら……試合場の外でオリガに手を振った。
今回オリガはナターシャの応援に来たのだ。当然ながら普段の巫女服ではなく、普通のパーカーのついた上着にジーンズと帽子で黒髪を最大限隠す方向だ。一番外見で目立つ部分を隠せば割と気づかれないものだ。
それでも、今人気があるナターシャが親し気に声を掛ければ周りの目も引く。『おい、あれって』『ウッわ……本物だぁ』と声をこぼす人もぼちぼちいた。
それでもここは日本。ハリウッド映画俳優相手でも相手を休暇中かと気遣ってサインを求めないお国柄。視線をちらちら向けはするが話しかけることはない。
「どんな感じですか、ナタさん」
「ストレッチは終わったし、練習試合も二戦目だよ。でも君が来てくれたならもっと格好いいところを見せなきゃね」
どっちかというと、それは男性が応援に来てくれた女性にやる奴じゃないかな、とオリガは思ったが最近は男女平等。応援するのが男女逆転でも別にいいやと考え直した。
「頑張ってきてくださいね」
「……」
ナターシャはオリガの言葉を受け、ちょっと近づいて自分の頬を指でノックする。
キスしてほしいというおねだりなのは分かった。オリガは自分の髪をひとつかみ持ち上げると……蛇に変じたそれがナターシャの頬にちゅっとキスする。ナターシャはむくれた。
「いじわるめ! 恋人にそういうことをどうしてしてくれないんだいっ」
「対戦相手さんがお待ちですよ」
オリガの服の中ににょろにょろがまた戻っていく。恋人がいちゃいちゃしてくれないことにナターシャはむくれたがオリガは平気な顔であった。
何せナターシャ自身、最初にカップル配信を持ち掛けられた時にあくまで演技、振りだと言われているのだ。
彼女のからかいや誘惑に本気になってはいけない。
『めんどくさいカップルにまきこまないでほしいなぁ』『ねー』『ねー』
と、そんなことを言いたげな目をしながら、オリガの髪のにょろにょろたちはパーカーから顔をのぞかせた。
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