【完結】ダンジョン配信者山田オリガくん、不本意なバズり方をする~ パワーアップのために諸肌さらしただけでわざとじゃないんです!性癖を破壊する意図なんかありません!!
第十六話 山田オリガくんの知らないとこで話し合いが持たれる!
第十六話 山田オリガくんの知らないとこで話し合いが持たれる!
命の危険に接した場合、探索者はいったんその時点で活動の休止を推奨されている。
オリガとナターシャの二人も突然のアクシデントに遭遇したのだ。肉体に怪我はなくとも精神に見えない疲労を抱え込んでいるものだ、と先達の探索者たちは経験談を語っていた。
「そんなわけで本日は更新を取りやめたいと思います」
「視聴してくれたみんな、ごめんね。次回はお詫びにオリガくんへのセクハラマシマシでお届けするよ」
「なんでですか!」
”お疲れー”
”一時は肝を冷やしたけど、無事でよかった”
”こういう時はたくさん飯食って風呂入って酒でも飲んで寝て忘れてね”
”セクハラマシマシ待ってます!”
大勢からの安心コメントがずらーと並ぶのを有難く見ていた二人は配信が終わったのを確認して……その場の近くにあった椅子にぐだーっと腰かけた。
最寄りの神殿から直通の移動魔方陣で転移し、二人は大きく安堵する。肩を寄せ合いながら息を吐いた。
「「疲れたー……」」
未だにオリガの頭髪からは蛇がにょろにょろしているが、近くのナターシャを噛んだりせず……とりあえずにょろにょろだけしている。
「さっき炎出す子を使った時……貧血みたいな疲労感を覚えました。アレですね……ファンタジーゲームでいうところのMPをごっそり持っていかれたんでしょう。超強力ですが消耗が激しくて長期戦向きではありませんね……」
「うん、強い手札だけどダンジョン探索は生還が一番大事なことだからね。戦術にどう組み込むかはおいおい考えよう」
頷き合いながら今後に関して会話をする。
ここは探索者たちがダンジョンに入り込む直前に位置する大広間。
周りには大勢の探索者たちがそれぞれ無事に帰った安堵や、採算が合わないことへの落胆、一攫千金を叶えて歓喜していたりと悲喜こもごもの人間模様を広げている。
ベンチに腰かけて呼吸をする二人は……そこでどたどたと駆けてくる足音に気づいた。
「おにーちゃーん!!」
「あれれ? ヒナちゃんじゃないですか」
「視聴してたら危なそうだったもん! 慌ててきたんだよよよっ!!」
そのままむぎゅーと兄に抱き着くヒナ。
ぐりぐりぐりと頭をこすりつけているが、オリガは特に気にすることもなく妹をかわいいかわいいと言いながら撫で繰り回していた。横で自分以外の女をかわいいと言っているオリガに対してナターシャはむくれていたりする。
そんな風に密着する妹にオリガの髪から生えている蛇たちも反応をする。
「あ。いつもの娘だ」「酒くれ」「酒くれ」「酒くれ」と言いたげににょろにょろと舌をちろちろさせていた。そんな気配を察したか、ヒナは兄から身を起こすと、懐から何かを取りだした。
「あんたたちはちょっと静かにしてね」
そう言いながらヒナは兄オリガの黒髪の根本に櫛を通して
ヒナの行動はそこまで奇怪ではない。
ダンジョンに出入りするような人間は普通の人より肝が据わっていたりするが、それでもオリガの髪から延びる蛇は人目を引く。なので隠すのは当然だが……。
「ぼ、ぼくのにょろにょろがー!!」
「お、おにいちゃん落ち着いて」
せっかく自分にも愛情を注げるペットができて内心うきうきしていたのに、また元の黒髪に戻って嘆きの声を上げるオリガ。
ただ動揺したオリガの前で、櫛に漉かれて黒髪に解きほぐされた蛇が『お、呼んだ?』と言いたげに舌をうねらせながらまた顔を出す様子を見せる。オリガは安堵し、ナターシャは感心し……そしてヒナは。
「あ……やっぱりもう封印は無理かぁ」
と、どこか納得したように呟くのだった。
その日の夜。
オリガとヒナは仲良く家に帰り。そしてナターシャはその日の夜、ひそかに借りているアパートから近所の営業時間の長いレストランに足を運んだ。
「やぁ、待たせたかな? ……オリガくんは?」
「お兄ちゃんはぐっすり寝てる。護衛には剣鎧童子を起動したから問題ないよ。
ナターシャ=更級さん。お兄ちゃんのパートナー。聴きたいことが山ほどあるって顔してるね」
二人がこうして顔を合わせるのは初めてだ。
しかしヒナは配信を通じて彼女の事を良く見聞きしているし……彼女の属する組織は、兄と行動を共にする探索者の彼女に関する情報のすべてをかき集めていた。
ナターシャは頷く。
「オリガくんのあの髪の毛。……アレは、なんだい?」
ヒナは配膳ロボットが持ってきたスパゲッティをフォークでくるくる巻きながら答えた。
「あたしさ、あんたが煙草の煙をおにいちゃんに吹きかけた時、本気で血の気が引いたよ?」
「え?」
「蛇は煙草のヤニを嫌うの。それは日本の伝承の中で培われた常識だもん。
それが煙草のヤニを嫌う伝承が広まる以前の伝説……八岐大蛇でさえ例外じゃないの」
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